インボイス制度の対象者、手続き方法、必要書類をわかりやすく解説
インボイス制度とは、事業者が取引先に対して正確な摘要税率や消費税額を伝えるために発行する書類に関する制度です。2023年10月から開始し、事業者によって納付する消費税額が変わる可能性があります。本記事ではインボイス制度の概要や対象者、事業者への影響や導入方法などについて解説します。
インボイス制度とは
インボイス制度は、事業者間の取引の際、消費税額の計算に必要となる書類に関する制度です。制度開始の背景には2019年に導入された消費税の改正が影響しています。ここからは、消費税の納付に関する事項を含め、インボイス制度の基本的な仕組みを押さえた後、インボイス制度がどのような事業者に適用されるのかをみていきましょう。
インボイスとは
インボイスは「適格請求書」ともいい、事業者が消費税の納付額を正しく算出するため、売り手が買い手に対して適切な税率により正確に消費税額を明記したことを証明する書類を指します。
インボイス制度の開始後は、従来の請求書は「区分記載請求書」とされ、同じ請求書でもインボイスとは扱いが区別されるようになります。
インボイスは、請求書のほかにも下記のような消費税を伴う取引に関する書類が該当します。
- 請求書
- 領収書
- 納品書
- 利用明細
- レシート など
インボイスが制度として導入される理由
インボイスにより消費税率と消費税額、納税義務者が明記されるようになり、誰がいくら消費税を納めるとよいか明確になります。
このように消費税に関する事業者間の書類が見直されるきっかけとなったのが2019年の税改正です。軽減税率の引き下げにより、10%と8%の消費税が混在するようになりました。その結果、消費税の計算の複雑化や経理業務の負担増、不適切な消費税額の課税などの課題が生じていたのです。インボイス制度が実施されると、消費税の納付の際に、取引先から受け取ったインボイスの内容に基づいて消費税の控除が行われます。
たとえば、次のように商品が流通したとしましょう。
- 製造者が卸売業者に対し、商品1000円+消費税100円(税率10%)で納品する
- 卸売業者が小売店に対し、商品1500円+消費税150円(税率10%)で納品する
- 小売店が消費者に対し、商品2000円+消費税200円(税率10%)で納品する
このとき、それぞれの事業者は、インボイスの記載に基づき、仕入れにかかった金額を控除して消費税を納付します。
- 生産者:消費税100円を納付する
- 卸売業者:消費税50円(150円-100円)を納付する
- 小売店:消費税50円(200円-150円)を納付する
どのような企業や産業に適用されるか
インボイスは、売り手と買い手の取引が適正に行われ、正しく消費税の納税ができるようにするための書類です。したがって、インボイス制度は消費税を含んだ取引を行うすべての産業および事業者に関係するといえます。
ただし、インボイス(適格請求書)を交付できるのは、税務署へ適格請求書発行事業者として登録申請を行った「インボイス発行事業者」に限られます。インボイス発行事業者の登録は任意ですが、登録申請を行う場合は課税事業者となる必要があります。
課税事業者とは、国・地方に消費税を納める義務を負う事業者です。次の要件を満たす場合に課税事業者となります。
- 前々年(個人)または前々事業年度(法人)の課税売上高が1,000万円を超える
- 前年の1月~6月まで(個人)または全事業年度の開始以後6カ月の期間(法人)の課税売上高や給与等支払額が1,000万円を超える
これに対し、免税事業者は納税義務が免除される事業者で、下記の要件を満たす場合に該当します。
- 前々年(個人)または前々事業年度(法人)の課税売上高が1,000万円以下
- 前年の1月~6月まで(個人)または全事業年度の開始以後6カ月の期間(法人)の課税売上高や給与等支払額が1,000万円以下
免税事業者の要件を満たす事業者の場合、そのままであれば消費税を納付する必要はありませんが、インボイス発行事業者に登録すると課税事業者となるため、納税義務の免除はなくなります。
【参考ページ】
令和5年度税制改正対応版 中小企業・小規模事業者のためのインボイス制度対策 [第3版]
インボイス制度の概要|国税庁
インボイス制度による事業主への影響とは
ここからは、インボイス制度が開始された場合の事業者への影響として、仕入税額控除の適用要件と請求書の書式に関する変更点について解説します。
仕入税額控除の適用要件が変わる
仕入税額控除とは、事業者が納付する消費税を算出する際、商品の売上で受け取った消費税額から仕入れにかかった消費税額を差し引く計算を指します。
従来は仕入れ先(売り手)が課税事業者か免税事業者かに関わらず、受け取った請求書に基づく帳簿を作成していれば仕入税額控除を適用できました。
しかし、インボイス制度の開始後は、仕入税額控除の適用にあたり仕入れ先から交付されたインボイス(適格請求書)が必要となり、免税事業者などインボイス発行事業者以外からの仕入れは消費税額の控除が摘要されなくなります。
区分記載請求書から適格請求書へ書式が変わる
従来の請求書(区分記載請求書)と比べ、インボイス(適格請求書)の書式では、消費税に関する事項をより詳細に表し、インボイス発行事業者であることを明示するための事項が追加されます。
区分記載請求書の記載事項は次の5点です。
- 書類の発行事業者の名称または氏名
- 取引年月日
- 取引の内容(軽減税率の対象品目があればその旨も記載)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額
- 書類を受け取る事業者の氏名または名称
インボイス(適格請求書)では区分記載請求書の内容に次の3点が追加されます。
- インボイス(適格請求書)発行事業者の登録番号
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(区分記載請求書の4.)に適用税率を付記
- 税率ごとに区分した消費税額等
【参考ページ】
免税事業者のみなさまへ 令和5年10月1日からインボイス制度が始まります!
インボイス制度開始に向けての具体的検討事項 | 中小企業の税金と会計 | J-Net21 中小企業ビジネス支援サイト
令和5年度税制改正対応版 中小企業・小規模事業者のためのインボイス制度対策 [第3版]
インボイス制度の概要|国税庁
インボイス制度のメリット
インボイス制度が開始されると、これまで消費税を納付していた課税事業者にとっては、正確な消費税の仕入税額控除を適用でき、納付が適正化される利点があります。では、免税事業者がインボイス発行事業者になった場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。
企業にとっての利点
免税事業者がインボイス発行事業者となると、課税対象者として消費税の申告と納税の義務が生じ、税務負担が増えますが、一方で、インボイス(適正請求書)を交付できるようになるため、仕入税額控除の会計処理を行う課税事業者の企業との取引がしやすくなります。
逆に言えば、取引先に売上高の大きな課税事業者を多く含む場合、インボイスを交付できない免税事業者は、仕入税額控除が適用されないため、契約内容や取引の継続などが見直されるおそれがあるわけです。インボイス制度に対応することにより、こうした影響を回避することができます。さらには、インボイス発行事業者になることにより、適正な取引先を探している課税事業者と新たな取引のチャンスに恵まれる可能性もあります。
税務上のメリット
税務上では、軽減税率など複雑化した税額計算を適正に行い、ミスを防ぐメリットもあります。区分記載請求書では、税率に関係なく合計額が表示されていたため、仕入税額控除のために10%と8%の税率に分けて消費税を再計算しなければならず、納税時の計算ミスにつながっていました。インボイスでは、区分記載請求書と比べて消費税額が税率ごとに記載されます。このため、消費税の計算がより容易かつ正確にできるようになるのです。
また、インボイスは不正の防止にもつながります。たとえば従来の請求書は、消費税率8%で仕入れた品目を10%の仕入れとして計上し、差額の2%分を利益にするような不正の温床となっていました。この点、インボイスには適用税率ごとの取引額と消費税額が厳密に記載されるため、不正が難しくなり、消費税の適切な納付が推進されます。
デジタルインボイスの導入でメリットはさらに大きく
税務処理上の効率化では、電子入力で行うデジタルインボイスの導入によってさらにメリットが期待できます。
デジタルインボイとは、インボイスをデータで直接送受信する方法です。PDFによる電子化と異なりデータがそのまま連携されるため、インボイスの発行側では印刷やPDF化のコスト、取引先に送付する手間が減り、取引先では受領したインボイスを会計システムへ入力する作業が省略できます。入力ミスや送付ミスも軽減され、書類の保管スペースも不要になります。
【参考にした外部ページ】
令和5年度税制改正対応版 中小企業・小規模事業者のためのインボイス制度対策[第3版]
インボイス制度開始まであと3カ月 業務ソフト各社、協業で中小支援 - 日本経済新聞
インボイス制度導入の方法
インボイスを発行するには、インボイス発行事業者の登録申請を行う必要があります。
インボイス制度導入のための準備は、次の4ステップで進めます。
- インボイス発行事業者に登録申請する
- 現行の請求書(消費税関連の書類)の様式を変更する
- 会計システムをインボイスに対応させる
- 取引先に連絡する
インボイス発行事業者の登録申請
インボイス発行事業者の登録申請は、e-Taxまたは書面にて行います。e-TaxはPC、スマートフォン、タブレット端末のいずれでも利用でき、手続きも画面に表示される質問に答えていくだけで完了します。
書面による登録申請の場合、国税庁のウェブサイトから申請書をダウンロードして必要事項を記入し、管轄地域の各国税局(国税所)のインボイス登録センターへ送付します。
2023年8月10日時点で、申請してから登録通知までの目安期間はe-Tax提出の場合は約1カ月、書面提出の場合は約2カ月半となっています。通知書は原則として再発行されないため、大切に保管しましょう。
なお、免税事業者は、インボイス発行事業者になると同時に課税事業者に転換します。通常であれば課税事業者になった場合には税務署への届出が必要ですが、2023年10月1日~2029年9月30日までの日が属する課税期間中にインボイス発行事業者の登録申請を行った場合、インボイス発行事業者の登録申請のみで課税事業者に転換でき、税務署への届け出は不要となります。
書類の様式とシステムの変更
インボイス発行事業者の登録申請をすませたら、関連する書類の様式とシステムを変更します。請求書や納品書などをインボイスの記載事項に合った様式にするとともに、販売管理や会計のシステムをインボイス対応に切り替えましょう。インボイス制度に自動対応しているシステムであれば、登録番号の入力などを行い、対応を完了させます。
取引先への連絡
インボイス発行事業者としての体制を整えたら、取引先へインボイス発行事業者に登録した旨や登録番号、交付するインボイスの様式や交付方法を連絡しておきましょう。
【参考ページ】
令和5年10月からインボイス制度が開始! 事業者間でやり取りされる「消費税」が記載された請求書等の制度です | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン
令和5年度税制改正対応版 中小企業・小規模事業者のためのインボイス制度対策(第3版)
お問合せの多いご質問(令和5年7月31日掲載)
適格請求書発行事業者の登録件数及び登録通知時期の目安について(令和5年8月10日掲載)
インボイス制度の課題と対策
ここからは、インボイス制度が開始された場合、どのような点に注意する必要があるのか、主な課題と対応策についてみていきましょう。
課税事業者における課題
課税事業者にとっては、仕入れ先が免税事業者だと消費税負担の増加が懸念材料となります。免税事業者からはインボイスが取得できず、仕入税額控除が適用されないためです。
インボイス制度の実施をきっかけとして免税事業者と取引条件を見直したり、取引の継続を打ち切ったりする行為については注意が必要です。基本的には取引当事者間での自主的な判断に委ねられるものの、免税事業者とでは交渉力の面で格差があるため、一方的に不利益を与える取引の見直しは、独占禁止法や下請法上で問題が生じるおそれがあります。
<問題となる行為の例>
- 免税事業者であることを理由に、請求段階で消費税相当額の一部または全部を減額する
- 免税事業者であることを前提に行われた単価から課税事業者になった下請事業者の単価交渉に応じず据え置いて発注する
- 免税事業者である仕入先に対し、正当な理由がないのに商品や役務の成果物の受取を拒否する、または返品する
- 免税事業者に対して課税事業者になるよう強要し、課税事業者にならなければ取引価格を引き下げる、それにも応じなければ取引を打ち切るなど一方的に通告する
なお、2029年10月までは仕入れ先が免税事業者であっても、仕入れでかかった税額の一定割合を控除できる経過措置が設けられています。
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2023年10月~2026年9月
Ø 免税事業者からの仕入れでも、仕入れにかかる消費税額の80%控除可能 -
2026年10月~2029年9月
Ø 免税事業者からの仕入れでも、仕入れにかかる消費税額の50%控除可能
免税事業者における課題
免税事業者にとっては、インボイスを交付できないために取引の解消や消費税分の減額など契約の見直しを求められ、売上が減ってしまうかもしれません。一方で、インボイスを交付するために課税事業者に転換すると消費税の申告と納税が発生し、税務面での負担が増えます。消費税分を取引価格に転嫁できなければ利益が減るおそれもあります。
販売先が一般消費者のみ、あるいは免税事業者のみの場合であれば、インボイスの発行は不要のため課税事業者になる必要は小さいでしょう。一般消費者はインボイス制度に関係しませんし、免税事業者は消費税の納税義務がないためです。
逆に、販売先が主に課税事業者であれば、インボイス発行事業者の登録を検討する必要があるといえます。販売先に一般消費者、免税事業者、課税事業者が混在している場合は、取引の状況や将来の見通しをふまえた総合的な判断が必要です。
「2割特例」による負担軽減策
免税事業者がインボイス制度に対応して課税事業者になった際の対策としては、「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)」があります。2割特例を選択すると、消費税の納税額は「売上時に発生した消費税の2割」で固定され、仕入税額の実額計算が不要となります。
この特例は事前の届出を必要とせず、消費税の申告時に2割特例を適用するかを選択します。
2割特例を適用できる期間は、2023年10月1日~2026年9月30日までの3年間です。
対象は、次の2つの条件を満たした事業者です。
- インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者になった事業者
- 前々年(個人)または前々事業年度(法人)の課税売上高が1,000万円以下の事業者
簡易課税制度の選択による対策
2割特例の期間終了あるいは2割特例の対象外となった場合に備えて、簡易課税の選択も対策として検討しておくとよいでしょう。
簡易課税では消費税額を、売上時に生じた消費税からみなし仕入率をかけあわせて算出します。
みなし仕入率は40%~90%までの範囲で業種別に定められています。売上の把握のみで納付税額を算出できる点、仕入税額の実額計算が不要な点は2割特例と同様です。
対象となるのは、前々年(個人)または前々事業年度(法人)の課税売上高が5,000万円以下の事業者です。簡易課税を適用しようとする課税期間の開始日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しましょう。
【参考ページ】
令和5年10月からインボイス制度が開始! 事業者間でやり取りされる「消費税」が記載された請求書等の制度です | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン
2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要|国税庁
インボイス制度の改正案に関する資料 : 財務省
免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A|公正取引委員会
インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え方|中小企業庁
インボイス制度に関するよくある質問
インボイス制度とは、事業者間でやりとりされる請求書や納品書などの消費税が記載された書類に関する制度です。インボイス制度が実施されると、仕入税額控除の適用は登録済みのインボイス発行事業者が発行するインボイス(適格請求書)を取得、保存した場合のみに限られます。また売り手側も交付したインボイスの写しを保存する必要があります。
インボイス制度により、税務上のミスや不正を防ぎやすくなります。消費税について現行の請求書よりも記載が詳細になるため、10%と8%の消費税率が混在していても消費税額を正確に算出しやすくなります。また本当は8%の税率で仕入れたものを10%で仕入れたとして、差の2%分を利益にするような不正も防止できます。
インボイス制度が導入されると仕入れ先からインボイス(適格請求書)を取得、保存しなければ仕入税額控除が適用できません。また免税事業者がインボイス発行事業者になると、それまで不要だった消費税の申告と納税が発生します。
インボイスを交付できない免税事業者は、消費税分の値引きや取引の打ち切りなど契約の見直しによる売上減が懸念されます。インボイス発行事業者に転換すればインボイスの交付はできるものの、一方で新たに消費税の申告と納税が必要となり、消費税分の値上げ交渉ができなければ利益が減るおそれがあります。
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