従業員にとって退職後の生活を支える、退職金と企業年金制度。事業に貢献してくれた既存の従業員のために、また今後の人材確保のために、福利厚生を充実させたいと考えている経営者も多いことでしょう。
今回は、経営者として知っておきたい退職金制度や公的年金、企業年金について、そして小規模経営者が活用できる制度について解説します。
退職金とは
従業員と雇用主の雇用関係が終了した際に、従業員に支払われる手当の一つが退職金です。大きく分けて、退職一時金(一時金での支給)と退職年金(年金方式で支払う方法)の二種類があります。
退職金は任意の手当のため、支給の有無、勤続年数や雇用形態といった受給条件、支給方法などは企業によって異なります。10人から299人の従業員を抱える東京都内の中小企業を対象とした東京都産業労働局の調査では、退職金制度がある企業は7割、制度なしと回答した企業が2割強でした。また、制度があると答えた企業の約8割が退職一時金のみ、2割が退職一時金と退職年金の併用と答えています。
参考:中小企業の賃金・退職金事情(平成30年版)(東京都産業労働局)
年金とは
年金の種類
年金とは、老齢や障害、死亡などによって、収入が無くなったり減少したりした被保険者や遺族の生活を保障するため、長期にわたって定期的に金銭を給付する社会保障制度です。保険制度の形をとり、国が運営する公的年金と民間の私的年金があります。
公的年金は、国民年金、厚生年金保険に分かれ、原則として強制加入です。基礎年金とも呼ばれる国民年金の対象者は全国民、厚生年金保険の対象者は民間企業に雇用されている者や公務員などです。私的年金には企業年金や個人年金があります。
年金制度の構造
日本の年金制度は3階建ての構造になっており、国民年金が1階部分、国民年金基金と厚生年金保険が2階部分、企業年金や個人年金が3階部分にあたります。国民年金基金は、20歳以上60歳未満の自営業者やフリーランスなど、国民年金の第1号被保険者などが基礎年金に上乗せする形で任意加入する保険です。
参考:
企業年金制度(企業年金連合会)
国民年金基金制度(厚生労働省)
企業年金とは
企業年金とは、企業が独自かつ任意で設ける退職年金制度で、企業における福利厚生制度の一つです。代表的なものとして、厚生年金基金、確定給付企業年金、確定拠出年金があります。以下、それぞれの特徴を見てみましょう。
厚生年金基金
1966年に始まったもので、企業が単独または複数で独立した基金を設立し、管理・運用を行います。私的年金でありながらも国が管理する厚生年金の一部を預かって運用を代行し、企業独自の給付を加えて従業員の退職時に支給します。バブル崩壊以降の運用環境の厳しさから廃止に至る基金も多く、現在はわずか8基金のみが残っています。
参考:企業年金の現況(令和元年5月1日現在)(企業年金連合会)
確定給付企業年金
現在、日本でもっとも多く利用されている企業年金制度です。企業が将来の支給額を保証し、拠出から運用、管理、給付までの責任を負うため、「給付建て年金」(Defined Benefit Plan、略してDB)とも呼ばれます。生命保険会社などの外部機関と契約して管理・運用を任せる規約型と、法人格の基金を設立して管理・運用する基金型の二つに分けられます。基金型の設立には原則として300人以上の加入者が必要です。従業員本人も2分の1を超えない範囲で掛金を負担できますが、基本的に企業が掛金を負担するため企業側の負担が大きいといえます。
確定拠出年金
「掛金建て年金」(Defined Contribution Plan、略してDC)とも呼ばれます。企業や従業員が毎月掛金を拠出して運用し、運用結果次第で将来の支給額が変わります。運用のリスクは加入者である従業員個人が負います。
事業者が掛金を拠出し60歳未満の従業員が加入者となる企業型では、企業は従業員に投資教育を行い、従業員は自分の判断で運用商品から金融商品を選びます。従業員一人ひとりに用意された専用口座に毎月の掛金や運用収益が蓄えられます。
「iDeCo」(イデコ)と呼ばれる個人型では、60歳未満の公的年金の加入者が金融機関など拠出金の管理・運営を行う機関を自分で選択し、自分で掛金を拠出して運用します。公的年金にプラスして給付を受けられる私的年金制度として、自営業者や企業年金のない会社に勤める従業員、専業主婦・主夫などが加入できます。
厚生労働省の調査では、退職年金制度がある企業の中で確定拠出年金(企業型)を採用している企業は約半数を占めていることがわかりました。運用結果によっては企業側の負担が重くなる確定給付企業年金よりも、確定拠出年金を採用する企業のほうが多いことがわかります。
参考:退職給付(一時金・年金)制度 平成30年就労条件総合調査(厚生労働省)
便利な制度
小規模企業が従業員の退職後の生活を支えるにあたって活用できる制度に、中小企業退職金共済制度と中小事業主掛金納付制度があります。
独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する、中小企業向けの退職給付制度です。掛金の一部を国が助成するため、自社だけでは退職金制度を設けることが難しい中小企業にとって大きな助けとなります。機構と契約を結んだ企業は毎月掛金を納付し、機構が運用します。従業員の退職時には機構が直接、従業員に退職金を支給します。
東京都産業労働局の調査では、退職一時金の準備について「中小企業退職金共済制度」と回答した企業が約半数でした。 多くの中小企業が退職金の準備方法として利用していることがわかります。
参考:7.退職金制度(中小企業の賃金・退職金事情 平成30年版)(東京都産業労働局)
確定拠出年金個人型(iDeCo)の加入者に対し、会社が掛金を上乗せできる制度です。導入には企業年金を実施していないことや従業員が100人以下であることなどの条件があります。コストや事務に関する負担を減らしつつ従業員の福利厚生を充実させることができます。
企業年金は、公的年金制度や退職一時金などとのバランスを見て、組み合わせて導入することも可能です。充実した福利厚生は優秀な人材の獲得にもつながるでしょう。便利な制度を使って、自社の制度も充実させてみませんか。
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執筆は2019年6月2日時点の情報を参照しています。
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