オーストラリアでは、名物のフラットホワイトをカフェで頼むときも、人気のチョコ菓子Tim Tamをスーパーで買うときも、フェリーで通勤するときも、支払い方法はキャッシュレスが主流となりつつあります。キャッシュレス決済比率は世界で4位(※1)とされているものの、キャッシュレスの割合は5割超え、タッチ決済(非接触決済)の普及率では世界一(※2)を誇ります。この記事では、キャッシュレス化を加速させたタッチ決済がどのようにして広まったのか、また今では国民の7割が利用するモバイル決済が普及した背景に迫ります。
※1. 2016年時点。キャッシュレス・ロードマップ2019より
※2. 2017年時点。Westpac: Australia is leading the world in contactless paymentsより
キャッシュレス化を加速させた要因1. タッチ決済の広まり
タッチ決済といえば、2012年にVisaのタッチ決済がロンドン大会の会場で採用されたことを皮切りにイギリスで普及したことを知っている人も多いかもしれません。一方、イギリスの普及率(2018年7月時点で52%、Worldpay調べ)を抜き、瞬く間にタッチ決済率を92%(2017年時点、Visa調べ)まで伸ばしている国は、オーストラリアです。Australia Payments Councilの報告書によると、「最低週1回はタッチ決済を使う」と答えた消費者が2017年時点で82% にも昇ります。タッチ決済はどのようにここまで浸透したのでしょうか。
参考:
・Contactless payments continue to grow in the UK(2019年1月2日、Mobile Transaction)
・The rise of contactless payments around the globe(Visa)
・Annual Review 2019(Australian Payments Council)
二大スーパー導入後、一気に盛り上がりを見せたタッチ決済
「Tap and Go(タップアンドゴー)」でも親しまれるタッチ決済を広く浸透させたきっかけは、オーストラリアの二大スーパー、Coles(コールズ)とWoolworths(ウールワース)での2011年の導入が挙げられるでしょう。ここでは100豪ドル以下であれば、PINの入力もサインも不要。デビットカード、またはクレジットカードをかざすだけで決済が完了します。
多くの国民が立ち寄るスーパーに利便性の高いタッチ決済を導入し、着々と支持を得たことが利用者の増加につながったと考えられます。また、Mastercardが2017年に発表した調査では国民の33%が「タッチ決済がないとイラついてしまう」と回答していることからも、タッチ決済が徐々に生活に定着しつつあることが伺えます。
参考:
・Coles and Woolworths to introduce “contactless payment” for groceries(2011年12月8日、Australian Food News)
・Tap and Go Technology Reigns in Australia(MasterCard)
2011年からは移動もキャッシュレスに
その後、さらにキャッシュレス化を促進させるうえでローンチされたのは、プリペイド式の交通系ICカード、Opal Card(オパール・カード)です。初めて導入されたのは2012年末で、ひどい渋滞が懸念される車通勤の代替手段である、フェリーでの使用から開始されました。その後、バスや電車などでの使用が可能となり、2016年頭にはOpal Cardの使用を促進するために54種類の切符が廃止されています。
乗車時の支払い方法はその後も変化を見せており、2017年からはバスや電車、フェリーなどOpal Cardの使用範囲内で、デビットカードやクレジットカードを使用したタッチ決済での乗車が試験的に開始されました。2019年9月からは正式に使用が可能となっています。
参考:
・Latest data shows contactless payments approach saturation point(Westpac)
・Introducing the Opal Card: transforming the way we move around(2012年11月26日、Transport for NSW)
・Opal heralds end to most paper tickets for NSW public transport(2015年12 月31日、The Sydney Morning Herald)
・Sydney farewells reliance on Opal card across public transport network(2019年9月22日、ZD Net)
キャッシュレス型店舗も増加。現金の使用率は近年減少傾向に
タッチ決済の普及を受け、オーストラリアでの現金使用率は2007年の69%から、2016年には37%まで減少していることがReserve Bank of Australiaの調査報告書からわかっています。加えて、2017年に発表されたVisaの調査によると、世界100都市のうち、最もキャッシュレス化が進んでいるトップ9都市にシドニーとキャンベラがランクインしています。
参考:
・How Australians Pay: New Survey Evidence(Reserve Bank of Australia)
・Australian cities among world leaders in cashless transactions: Visa report(2017年11月22日、The Sydney Morning Herald)
大手スーパーや交通機関での導入に続いて、タッチ決済を受け付ける店舗が増加したことも、キャッシュレス化が定着しつつある理由の一つでしょう。
たとえば最近ではセブン-イレブンがキャッシュレス店舗をオープンしたり、ドミノ・ピザがキャッシュレス型店舗を試験的に始めたりしています。メルボルンでは長蛇の列を作るクロワッサン店「Lune Croissanterie」もキャッシュレス型に転向、特にカフェの激戦区であるメルボルンでは盗難防止や会計スピードを早めるうえでもキャッシュレス化に移行する店舗が増えているそうです。
参考:
・7-Eleven opens its first cashless and cardless store in Australia - and apparently you’ll be able to checkout in seconds via its app(2019年5月29日、MSN)
・Domino’s tests cashless stores and deliveries(2019年7月19日、Engadget)
・Tap and go: Why foodservice businesses are going cashless(2019年3月17日、foodservice)
・‘It was the nail in the coffin for me’: Pope Joan cafe bans cash after three robberies(2017年7月27日、The Sydney Morning Herald)
キャッシュレス化の勢いを受け、カード決済は2015年の62億豪ドルから2018年の88億豪ドルにまで伸びていることがAustralian Payments Councilの2019年の報告書からわかっています。また、オーストラリアの四大市中銀行の一つであるウエストパック銀行の調査によると、ウエストパック銀行が発行しているVisaのユーザーのうち、対面決済でタッチ決済を利用しているユーザーは90.6%に昇るそうです。同報告書によれば、最も好まれる利用場面はファストフード店(98%)、次いでスーパー(96%)、ディスカウントストア(93%)という結果になっており、スピードが求められるビジネスで好まれる傾向にあることが伺えます。
参考:
・Australian Payments Council 2019 Consultation(Australian Payments Council)
・Latest data shows contactless payments approach saturation point(Westpac)
キャッシュレス化は加速させた要因2:デジタルペイメントの利用拡大
Australia Payments Councilの報告書によれば、2017年時点でスマートフォン保有者は人口の88%。65歳以上のシニア世代の間でも、78%はスマートフォンを所有しているそうです。マーケティングリサーチ会社のRoy Morganが50,000人の国民を対象に行なった調査によると、2017年12月から2018年11月の間でデジタルな決済手段を使用したのは、72.4%とされています。このようにデジタルペイメントの普及も、キャッシュレスを後押ししているといえるでしょう。
同調査によると、最も使用されていたのはインターネットバンキングによる決済(59.1%)で、PayPalやVisa Checkoutなどのオンライン決済サービスが43.9%で二番目に多い結果となりました。インターネットバンキングには、代表的なものとして1997年にローンチされた「BPAY」があり、銀行口座を登録するとスマートフォンやタブレットなどの端末から支払いができるようになっています。たとえば水道代やガス料金、家賃、電話代、保険金など生活周りの支払いがBPAYを通じて行えるようになっており、BPAYが2018年に発表した調べによると、国民の6割はBPAYで前述の支払いを済ませているようです。
参考:
・Australian Payments Council 2019 Consultation(Australian Payments Council)
・Majority of Australians now use digital payments – a potential threat or opportunity?(2019年1月21日、Roy Morgan)
・BPAY - Homepage
・Most Australians still choose BPAY to pay their bills(2018年5月14日、BPAY)
また、2018年にはモバイル決済の利便性を高めることを目的に、13行もの銀行と金融サービス提供者が手を組み、New Payments Platform(NPP)が設立されました。NPPとは、異なる金融機関を通じたリアルタイムでの決済取引を可能とするプラットフォームです。従来のように入金までラグがなく、送金をしたその場で相手先の口座に入金されるシステムとなっています。
NPPを通じて、同年には「PayID」というサービスがローンチされています。PayIDは、覚えにくい銀行の口座番号の代わりに登録した電話番号、またはメールアドレスをインターネットバンキングのアプリに打ち込むだけで相手先に送金ができるシステムです。食事の割り勘など個人間での送金をはじめに、NPPをシステムに導入している事業とであれば決済取引が可能です。Australia Payments Councilが2019年に発表した資料からは、PayIDを通して毎日400,000件ほどの取引が行われていると報告されています。
参考:
・FAQS(Westpac Banking Corporation)
・Banking in a flash: A guide to the New Payments Platform (NPP)(Mozo)
・Australian Payments Council 2019 Consultation(Australian Payments Council)
このようなサービスの誕生とは別にモバイル決済の利用率に貢献しているのは、オンラインショッピングの利用率増加でしょう。National Australia Bankの調べによると、オンラインショッピングの利用額が2016年の201豪億ドルから2019年には293豪億ドルまで、三年間で45%ほど増加していることがわかっています。
参考:
・NAB Online Retail Sales Index, Monthly Update – June 2019(2019年8月1日、National Australia Bank)
・NAB Online Retail Sales Index: Indepth report – June 2016(2016年8月3日、National Australia Bank)
一方、Apple PayやAndroid Payなどスマートフォンを利用したモバイル決済は、Roy Morganの調査によれば全体の6.8%とされており、まだ成長過程にあるようです。Venture Insightsが2018年に発表した調べによると、なかでも最も使用されている決済アプリには前述のインターネットバンキングアプリ(51.9%)、次いでApple Pay(24.9%)、Google Pay(17.4%)という結果が出ています。
参考:
Majority of Australians now use digital payments – a potential threat or opportunity?(2019年1月21日、Roy Morgan)
Mobile payments – Australia moving from cashless to walletless?(2018年10月2日、Venture Insights)
オーストラリアではタッチ決済が広まったことにより、キャッシュレス決済が浸透したことがわかりました。オーストラリア以外にも、日本のキャッシュレス比率を超えるアメリカ、イギリス、中国、韓国でのキャッシュレス事情も掘り下げてきました。それぞれ異なるきっかけや国の施策をもとにキャッシュレスを浸透させています。気になる方はぜひ下記よりご覧ください。
◀︎◀︎◀︎韓国のキャッシュレス事情
世界のキャッシュレス事情については、こちらも合わせてご覧ください。
(1) アメリカ
(2) イギリス
(3) 中国
(4) 韓国
執筆は2019年10月11日時点の情報を参照しています。
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