※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。
現金での手渡しや銀行振り込みで通常行われることが多い賃金の支払いですが、2019年1月に政府は「デジタルマネー」による支払いを解禁していく方向で検討を進めていると発表しました。
参考:賃金デジタル払い解禁を検討 国家戦略特区でキャッシュレス化推進(2019年1月23日、SankeiBiz)
今回は、将来実現するかもしれない賃金のデジタル払いについて、経営者として知っておきたい情報を紹介します。
賃金のデジタル払いの概要
賃金の支払い方には、労働基準法第24条によって以下に挙げる四つの原則が定められています。
[1]通貨払いの原則
賃金は現金で支払わなければならず、現物(会社の商品など)で払ってはいけません。ただし、労働者の同意を得た場合は、銀行振込み等の方法によることができます。また、労働協約で定めた場合は通貨ではなく現物支給をすることができます。
[2]直接払いの原則
賃金は労働者本人に払わなければなりません。未成年者だからといって、親などに代わりに支払うことはできません。
[3]全額払いの原則
賃金は全額残らず支払われなければなりません。したがって「積立金」などの名目で強制的に賃金の一部を控除(天引き)して支払うことは禁止されています。
ただし、所得税や社会保険料など、法令で定められているものの控除は認められています。それ以外は、労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者と労使協定を結んでいる場合は認められます。
[4]毎月1回以上定期払いの原則
*賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません。したがって、「今月分は来月に2か月分まとめて払うから待ってくれ」ということは認められませんし、支払日を「毎月20日~25日の間」や「毎月第4金曜日」など変動する期日とすることも認められません。ただし、臨時の賃金や賞与(ボーナス)は例外です。
デジタル払い解禁検討の背景
賃金のデジタル払い解禁検討の背景には、キャッシュレスの普及とともに、さまざまな国から来た人が今後日本の労働市場を支えていくことが予想されることがあります。
デジタルマネーとは、実物として存在する貨幣ではなく、電子情報のみでやりとりができるお金のことを指します。事前にICカードやスマートフォンのアプリを使ってチャージして使用するプリペイドタイプや、使用後に登録したクレジットカードなどを通して引き落としされるポストペイタイプのほか、ビットコインなどの仮想通貨なども含まれます。
前述の労働基準法第24条の「通貨払いの原則」によると、賃金の支払い方法は基本的に現金での支払いとなっています。例外的な措置である銀行振り込みによる方法をとる場合には従業員の同意が必要で、今回検討されているデジタル払いについても、銀行振り込みと同様に従業員の同意を得た場合に限った支払い方法として解禁される見込みです。
今のところはどのデジタルマネーがデジタル払いの対象となるかははっきりしていませんが、資金移動業者として登録した事業者のサービスになることが見込まれます。
賃金のデジタル払いに見込まれるメリット
外国籍の従業員が賃金を受け取りやすい
外国籍の人が日本で銀行口座を開設する際には、滞在期間によっては開設ができなかったり、手間や時間を要したりすることがあります。デジタルマネーを利用することで、賃金の受け取りがスムーズとなり、外国籍の従業員にとっては利便性が向上すると期待されます。
お金の流れが把握しやすい
デジタルマネーで支払われた賃金は、その後の流れもデジタルデータとして追うことができ、現金と比べてお金の流れが把握しやすいという特徴があります。税金や社会保険料などの支払いの効率化も望めるでしょう。
キャッシュレス化の推進
普段の買い物に用いるプリペイドカードやアプリに給与が振り込まれれば、自分の銀行口座からお金を移動させることなく、日々の生活の支払いに利用できます。現金の手渡しや銀行振り込みで給与を受け取る場合に比べて、手間が省けるため、キャッシュレス化が推進されることが見込まれます。
現金流通コストの削減
現金の流通には、金融機関の人件費やATMなどの機器の維持費など、インフラを管理するためのコストが掛かっています。賃金のデジタル払いによってキャッシュレス化が推進されれば、現金流通にかかわるコストを削減できると考えられます。
賃金のデジタル払いによるリスク
デジタルマネーを管理する資金移動業者が破綻した際には、給与の支払いが遅れたり、銀行口座を持たない従業員に賃金を受け渡せなかったりするリスクも考えられます。
今のところ、デジタルマネーは使える店舗やサービスが現金と比較して限りがあります。賃金がデジタル払いとなった際、受け取ったお金の使い道が限られてしまうなど、現金と同じ使い勝手を得られないリスクがあります。
また、資金移動業は「銀行等以外のものが100万円に相当する額以下の為替取引を業として営むこと」とされていることから、現状では100万円を超える給与の支払いをデジタル払いすることはできません。
国家戦略特区に絞って解禁する方向で検討されていた賃金のデジタル払いですが、地域を限定せずに解禁を検討しているという発表もあります。
また、資金移動業者に100万円を超える送金を認めるようにする動きもあり、賃金のデジタル払いに関わる状況は日に日に進展を見せています。
賃金のデジタル払いが気になる経営者は、今後の動向を意識的にチェックしてみてください。
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執筆は2019年3月12日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash