【商いのコト】「魂を売りたくない」尖った提案を引っ提げた建築士とまちの話

一緒につなぎませんか?失敗と成功と学びのバトン。全国のSquare加盟店が商売のコトについて語り、次のお店に「バトン」をつなぎます。

つなぐ加盟店 vol.4 HAGISO 代表 宮崎 晃吉さん

そもそも HAGISO と hanareとは?

東京台東区は谷中3丁目 ーー江戸時代からの古い町並みが残る「谷根千(やねせん)」エリアのなかでも、「谷中のへそ」とでも言うべき辺りを歩いていると、「ぬっ」と現れる建物がある。HAGISO だ。

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▲HAGISO 外観

「築60年の木造アパートを改修した『最小文化複合施設』」と紹介される通り、1階にはギャラリーやカフェ、2階には HAGISOの設計・企画運営を手がける宮崎さん主宰の一級建築士事務所(HAGI STUDIO)と、ホテル(hanare)がある。

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▲HAGISO 1階

ホテルと言っても、HAGISOにあるのはレセプションのみ。「さあ、まちに泊まろう。」のコンセプトの通り、hanare は谷中のまちを舞台にした新しい形のホテルだ。この「まちがホテル」モデル、HAGISO 代表にして hanare の仕掛け人、宮崎さんはどのようにして思いついたのだろう。

”宿泊室はまちの中の空き家をリノベした古民家。
大浴場は地域に根づいたまちの銭湯。
ホテル自慢のレストランはまちの美味しい飲食店。
朝ごはんは HAGISO 1階の HAGI CAFEで毎朝ご提供します。”

ローマで体験したホテルがヒントです。普通じゃなくて面白かった

狭い廊下の奥にあるHAGI STUDIOの扉の向こうから「ぬっ」と現れた宮崎さん。お洒落に生まれ変わっても、変わらず飾らないHAGISOの木のぬくもりと、どこか似た雰囲気の持ち主。

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▲HAGISO 2階奥の HAGI STUDIOから現れた宮崎さん

「HAGISO のオープン前、ローマを旅する機会があって。その時に泊まった『普通じゃないホテル』がヒントでした」

『普通ではない』とは、どういう意味なのだろう?

「まず、住所をたよりにホテルまで行ってみると、集合住宅が建ち並ぶちょっと物騒な感じのエリアでした。受付はなんとその集合住宅の一室。思わず『ここがホテルなの?!』と戸惑っていると、部屋に案内するからついて来いと言われ…」

連れて行かれたのは、数ブロック先の別の集合住宅の一室。

「さらに驚きだったのは、建物の見た目はぼろぼろだったのに、室内のインテリアは完璧にホテルだったことです」

受付と宿泊室が数ブロックも離れているということは、食事はルームサービスのように部屋まで届けてくれるということだろうか?

「いえ、受付の人が、自分の行きつけのレストランを教えてくれたくらいのものでした。ギリギリのホスピタリティーとでもいうか(笑)」

ちょっと尖らせたかった

当時は「面白い体験があるものだ」くらいに思っていたという。しかし、これがのちに hanare という新たな宿泊モデルとして、日本の谷中に蘇る。

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▲宿泊棟 丸越荘玄関

HAGISOを立ち上げてしばらく経ち、十分な拠点性を持ってきたころ、自然と谷中観光の次のステップを考える時期がきていた。

「HAGISOを中心に何ができるかなって考え出したところで、ローマのホテルを思い出したんです」

日帰りのまち歩きだけでは滞在時間が限られ、王道の観光ルート以外に「いいな!」と思う店や体験があっても、なかなか紹介しきれない。

「ちょっと尖らせたかったという思いもありました。『普通のホテル』に飽きてしまった人に向けて何ができるかと考えたとき、ローマで自分が体験したように、宿泊するまちごと体験してみませんか?というメッセージを発信していきたいと考え、そこからhanareのコンセプトが生まれたんです」

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▲「ちょっと尖らせたかった」HAGISO 2階 SHOPにて

同じお金で『いいホテル』に泊まることはできるかもしれない。しかし『いいホテル』はどこも同じようなものだ、と感じる人もいる。仕組みや施設、どんな体験ができるのかも「なんとなく知ってる。それで、ここは星がいくつだっけ?」の世界だ。

一方、hanare が目指すのは、これまでの星の数では評価できない新しいホテル。

「ホテルのレセプションから宿泊棟まで、まちの中を歩いて移動するとか、風呂に入るにもまちの銭湯をご利用くださいとか、見方によっては『負荷』かもしれません。でもそれを、負荷として捉えるのではなく、『ここにしかない、この土地ならではの特別な体験』として楽しめる人にこそ泊まりに来てほしいです」

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▲宗林寺

hanareで築いていきたいのは、谷中のまちを受け入れ、また、まちの人に受け入れられる宿泊の形。ただ観光客が増えればよいという単純な構造は、宮崎さんがhanareと共に思い描く谷中観光の新しい形ではない。

まちの人に『自分たちの場所じゃなくなっている』と言われたことがあります

「HAGISOの賑わいも、まち歩きの観光客の増加も、実はこの地に住んでいる人々からすると必ずしも歓迎されることばかりではありません」

商店街に行っても必要な生活雑貨が揃わなくなった。肉屋へ行っても肉がない。あるのは、まち歩き観光客のためのコロッケだけ・・・。

「まちの空洞化(ジェントリフィケーション)的な問題です。本来ここで居住していた人々が出ていってしまい、まちの色とでもいうべきものが薄まってしまう。HAGISOがそれに加担してしまっている可能性は否めません」

一極集中型モデルでは宮崎さんが目指す「谷中観光の次のステップ」は実現できない。だからこそ、hanare の集客はことさらじっくり進めている。闇雲なプロモーションは仕掛けたくない。仕掛けるべきではない。

「そこで魂を売るような真似はしたくないです」

歴史研究会、町会、文化資源会議など、まちの住人と対話する機会はたくさんある。それらに積極的に参加して時間をかけて話していく、関わっていく努力を続けている。

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▲HAGISO でのイベント やなかこども文庫

「僕自身が話を続けていくことの他に、HAGISOとhanareのスタッフの教育も大事だと思っています。例えば、hanareに関して言えば、コンシェルジュが鍵です」

コンシェルジュ ーー hanareのレセプションで宿泊客を迎え、まちの情報を伝え、宿泊棟まで歩いて案内し・・・それだけが彼らの役割ではない。宿泊客にこのまちのあり方を体現してみせるのも、コンシェルジュの仕事だ。

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▲まちの路地

だからこそコンシェルジュはまちに入っていく。まちを歩き、人と挨拶をかわし、ゆっくりじっくりまちと関わる。人を通じて、人と、まちとつながっていくことが重要だ。

「hanareに泊まる人には、礼儀をもって滞在して欲しいですし、まちの日常に入っていくことを『強いられている』と感じるのではなく、楽しんでもらいたいです。『ハレとケ』で言うところの『ケ』な日常こそがまさに付加価値ですからね!」

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▲夕焼けだんだん

HAGISO
hanare
東京都台東区谷中3-10-25 HAGISO

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文:つなぐ編集部

写真協力:HAGI STUDIO