セルフブランディングとは、ビジネスの運営者(企業、店舗)が魅力あるブランドを自ら作り上げ、発信していくための戦略です。新たな製品やサービス、事業の立ち上げの際はもちろん、企業や店舗が自らの認知度を高め売り出していこうとするときにも、セルフブランディングは必要になります。
事業規模の大小を問わず、むしろ中小企業や個人事業者など小回りが効くビジネスほどセルフブランディングは実行しやすいかもしれません。手法や注意点をしっかり理解した上で実践し、マーケティングやプロモーションに生かしましょう。
セルフブランディングで何が変わる?
企業や店舗がセルフブランディングをしないままマーケティングやプロモーションを進めようとすると、極端にいえば製品をどの部分を、どのようにすすめるべきかといった方針を立案することが難しくなります。
セルフブランディング(self branding)はその名の通り、自らのブランド化をすることです。「独自の価値」を、製品やビジネスを通じてどのように体現し、伝え、受け入れてもらうかという、独自性を魅力として打ち出していくことです。
シンプルにいえば、セルフブランディングを導入することで、ビジネスの価値をお客様に認識してもらいやすくすることが目的です。価値あるビジネスであることが伝われば、他社との違いや優位性により販売力がアップするだけでなく、信頼性も高まり、さらに多くの人に広まりやすくなります。
ブランド化するための条件
そもそも「ブランド」とは何か、を考えることで、ブランディング、ひいてはセルフブランディングの在り方が理解しやすくなります。
ブランドというと服飾品や自動車、家電などのカテゴリーにおける高価な製品を指すイメージもありますが、本来は「他と区別できる特徴を持つ」こと、そして「価値の高い製品」であることがブランドの示す意味です。逆に考えれば、変わった特徴がなく、かつ特に価値が高くない製品はブランドとして認知されないということになります。さらに「特徴はあっても価値が低い」場合もブランドとはいえないため、製品の社会的な必要性や将来性をしっかり見据えたビジョンも欠かせません。
つまり、ブランドとして成立するために必要な条件をまとめると、以下の三つになります。
1, 独自のビジョンや専門性に基づき提供される
2, その製品にしかない機能、デザイン、性質がある
3, それらの特徴はマーケットのニーズを満たす
たとえば、食卓に上るお米を例に考えてみましょう。パッケージされ製品化されたお米はスーパーマーケットなどに数多く並び、一見して違いを推し量ることは難しいように感じられます。しかし消費者は産地や価格だけでなく「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」といったブランドも考慮しながら選びます。ブランド米と呼ばれるこれらのお米には、味や質感、適した食べ方などの特徴があり、それぞれに消費者の好みを捉えているだけでなく、ブランドの持つイメージが製品価値をアップし販売力に貢献しています。
もしこれから新規事業者として米市場に参入しようとするなら、ただ「他と区別できる特徴を持つ」だけでなく、「価値の高い製品」でないと、消費者から選ばれにくいでしょう。もし陳列棚に「100%無農薬のオーガニック(有機栽培)の玄米」が並んだら、他と違う特徴と高い価値を併せ持つ製品と認知されます。これは上述の3つの条件を満たしていることになります。
1, 自然と人間がサスティナブル(持続可能)に共生する食文化というビジョン
2, 無農薬生産で自然への低負荷を実現し、健康や美容にも寄与するという特性
3, 食への強いこだわりを持つ人のニーズを満たす
このように製品の独自の特徴や魅力を提供し、お客様にとっての価値を高めていくことをブランディングといいます。無農薬栽培は手間やコストがかかるものですが、消費者に価値を理解してもらった上でコストに見合った金額を設定できるとすれば、ビジネスとして継続が可能です。決して米製品の主流とはいえないオーガニックという特性を全面に押し出し、パッケージや陳列、販売店舗、宣伝方法などもターゲット層に照準を合わせていくことで、独自ブランドとしてマーケットで存在感をアピールできます。ブランディングは、製品の機能だけではない総合的な価値を発信し、お客様の信頼や評判を勝ち得ていくための基礎になります。
セルフブランディングは誰でもできるか
ブランド化というと、メーカーやデザイナーなど流通の生産元に近いビジネスでしか実践しにくい印象がありますが、セルフブランディングは小売や飲食などさまざまな業種・業態で有効な戦略です。
たとえば大手飲料メーカーが製造したペットボトル飲料を販売する場合、製品そのものはメーカー側の規格で作られたものであるため差別化ができませんが、販売方法や店頭でのPRの方法は小売店ごとに全く異なる手法を採ることが可能です。店独自のメンバーシップカードでポイントを通常より多く付与する、製品がよりおいしそうに見えるポップや陳列の工夫をする、販売スタッフが製品の特徴をお客様に説明するなど、サービスやプロモーションの独自性で、他店と差別化を図ることができます。
その際、重要となるのが店舗そのもののセルフブランディングです。他店にはないフレンドリーな接客を店の価値とするのか、スピード感重視のシンプルな応対を売りにするのかでは、店舗の「ブランド」としての見え方は大きく異なります。異なるブランドには異なるお客様が付き、求められるサービス、製品、価値そのものも違ってきます。ターゲットの属性や地域特性、他店との競合性なども意識したセルフブランディングが成功の鍵となります。
セルフブランディングの簡単な導入方法
自社・自店の独自性は何かということを考えるとき、最も簡単な方法は他社・他店との違いを見出すことです。たとえば学生とビジネスマンが多いエリアに、ランチタイムに競合するA、B、Cの飲食店があったとします。各店舗には以下のような特徴があります。
A:安さと早さで人気の牛丼店
B:ボリュームと家庭の味が特徴の大衆食堂
C:豊富なメニューで低価格のパスタ店
3店舗の特徴を書き出してみると、ランチタイムにゆっくりと落ち着いた環境で食事をできそうな店がないことに気づきます。また、ビジネスマンが多いエリアでありながら、ランチミーティングができるイメージの店も存在しません。
もしそうしたニーズがリサーチで明らかになれば、価格帯が他より高くても利用したい人は一定数存在する可能性がありますが、上記の3店はそのニーズをすくい上げられるブランドではありません。そのため、自店が目指すべきビジネスのスタイルやセルフブランディングの方向性が自然と見えてきます。
このようにターゲットのペルソナと競合の特性を重ね合わせてみることで、狙い目となるホワイトスペースが見えてくることがあります。ホワイトスペースの上で、自店で実現したいことをセルフブランディングとして戦略化するというのは有効な方法です。
セルフブランディングの注意点
セルフブランディングは、80であるものを100に見せるのでなく、80であるものを100に高めていくという、自らの価値向上のための戦略です。決して、自社・自店を「実際より良く見せる」ための努力ではありません。その点を誤ってしまうと、セルフブランディングの失敗や行き詰まりにつながります。
セルフブランディングの計画を立て実践する際には、「自店を飾り立てるような見た目だけのブランディングになっていないか」を客観的に見直す必要があります。見直しの際にはブランド化に求められる三つの条件に立ち返り、そこからずれが生じていないか、また「ビジネスの価値をお客様に認識してもらいやすくする」というセルフブランディング本来の目的に適っているかを定期的にチェックしましょう。自社・自店のセルフブランディングさえ確立していれば、新たな製品・サービスの導入や事業拡大に際しても、ブランド力を維持したままでいられるため、お客様の信頼や評判も保ちながら成長することが可能です。
まずはビジネスの強みを客観視するところから、セルフブランディングを始めてみてはいかがでしょうか。
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執筆は2019年6月18日時点の情報を参照しています。
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