起業とは、長年夢見ていたとしても、ひょんなことをきっかけとしても、誰もが実現できるようなものではありません。例えば、長年務めてきた会社を辞めて自らの手で一から事業を始めるためには大きな決断力が必要です。犠牲になるものも少なからずあるでしょう。それでも、新しい事業を成功させたいという信念を持って起業の第一歩に踏み込む勇気は素晴らしいことです。
しかし、どんなに素晴らしいアイデアがあっても、そのアイデアが現実にならなければ意味がありません。起業とは、決断するだけのものではなく、その後の継続や発展を見越したものです。明確な青写真が描けなければ、せっかく立ち上げた会社も収益を上げることなくあっという間に破綻してしまうということもあるかもしれません。
起業した後の継続的な経営と事業の拡大を確実に実現するために、事業を始める前の最初のステップとして事業計画書の作成が重要になります。
誰のための事業計画書?
事業計画書とはその名の通り、事業の計画を文書化したものです。
その内容は、日々どのように事業を展開していくのか、事業拡大に向けてどのようなシナリオを描いているのか、想定され得る懸念点やトラブルに対してどのような対処法を準備しているのかなどです。これらを文書化しておくことで、経営者や起業家は、事業を始めてからの進捗確認などを明確な指標を持って行うことができますし、事業展開をしていく中で方向性や目標を見失いそうになる場面でもいつでも参照することができ、必要に応じて軌道修正にも役立てることができます。
事業計画書には、資金の使い方や日々の運営方法など、事業を展開していく上で関係ある全ての内容をできるだけ具体的に盛り込む必要があります。
もちろん経営者だけでなく、同じ目標に向かって一緒に事業を運営していく社員やアルバイトなどの従業員にとっても事業計画書の存在は重要です。コンセプトや方向性を共有することで、各従業員がそれぞれの役割を理解し、自分の業務が全体の事業計画にどのように関っているのかを理解するのに役立ちます。
そして忘れてはいけないのが、資金援助の申請です。国や自治体、または金融機関などから資金調達をする際に、事業計画書の提出が求められます。各機関では異なる申請条件や審査基準を設けていますが、いずれにせよ「この事業に融資したい」と思ってもらうことが最重要です。
家族や知人に開業資金の出資を求める際も、どのような事業をどのような目標を持って計画しているのかということが明確に分かる文書があると、相手に対する説得力が高まります。このような対外的アピールのためにも事業計画を作成することは必須です。事業計画書は、外部関係者とのコミュニケーションのためツールの一つともいえるでしょう。
更なる新規顧客とリピーターの獲得を
おすすめマーケティング手法をチェック事業計画書の内容
事業計画書には決まったフォーマットは存在しませんが、経営者自身が経営方針を把握していて口頭で説明することさえできれば内容や書き方は何でも良いというわけではありません。場合によっては、資金援助の申し込み先に事業計画書を送付することが求められます。読み手を意識して事業計画書を作成する必要があります。
しかし、資金の融資対象に採択されたいという想いのあまり、経営者の事業に対する強い熱意ばかり強調することも好ましくありません。その事業が選ばれる理由とは、経営者のやる気の度合いではなく、経営者が考えている新しい事業を「やるだけの理由」に同意しているからです。つまり、事業を始めることの正当性や優位性を事業計画書の内容から感じ取ってもらう必要があります。
事業計画概要を入れる
事業計画書の冒頭に、事業の内容が一目で分かるような概要を入れましょう。「何を、なぜ、何のためにする事業なのか」が、概要を読むだけで分かるように明確に記述します。何にビジネスチャンスを見出しているのかも理由と併せて盛り込むことが好ましいです。
読み手は、事業計画書の全体や細部を読む前に概要部分から事業に対する印象を決める傾向があるので、簡潔に分かりやすく、且つ魅力的に書くことが重要です。
計画書のタイトルも意識的に決めましょう。例えば、「地域密着型パン専門店事業計画書」のように、一言で事業の内容が分かるようなタイトルにすることも、読み手にすぐに事業内容を理解してもらうためのポイントです。
背景の説明と分析
社会や既存の市場の中で、なぜその事業が必要とされているのかが分かるように背景を説明します。
前例で挙げた地域密着型のパン屋であれば、「○○という地域では、自宅で食べるための持ち帰りができるパン屋の数が少ない。また、平日の日中に地域住民が軽食を食べながら談話できるようなカフェスペースに対する需要が高まりつつある」という実態を背景に、地域に密着したパン専門店を開業したいというふうに説明することができます。
そのためにも、対象とする市場をしっかり分析しておく必要があります。例えば、地域や年齢別の人口構成データを入手して一日の生活パターンを調査します。退職後の高齢者や子育て世代にとって日中に時間を過ごせるような場所の需要が高いと分かれば、この需要に応じたビジネスを展開するための強い動機となります。
統計やアンケートなどは、客観的な判断がしやすく、事業計画書の内容に説得力や妥当性を与える要素となります。対象とする市場の弱点を見つけることも重要です。例えば、食材の仕入先の相場や同業他社の大型チェーン店の進出などをあらかじめ把握しておくことで、今のうちに対処法を準備することができます。これらの内容も全て事業計画書に盛り込み、市場の現状だけでなく、ビジネスに対する先見性があることもアピールしましょう。
読み手は、必ずしも事業計画書の内容にある事業分野や市場に関する知識に長けているわけではありません。専門用語ばかり使うことはなるべく避け、数字やグラフなどを用いて市場の現状や各ビジネスとの関係を分かりやすく説明しましょう。
具体的な事業計画
開業に必要なお金や日々の運用など、事業を始めて実際に運用していくための計画を具体的に説明します。
「何を何個仕入れるのか」といった仕入れ計画や、「一日に何を何個売るのか」といった販売計画を詳細に記載しましょう。他にも、店舗の家賃や維持費、必要備品にかかる費用、従業員を雇う場合は給与や待遇についてなど、運用資金に関する計画も明確にします。
仕入れ、仕込み、調理、販売など、一日のオペレーションの詳細が分かるように記載します。これらはそのまま各従業員が従うことになる業務内容にもなります。
提供する商品やサービスの特徴ついての説明もこの項目で説明します。導入する機材や使用する食材などで他社と差別化を図れるようなアピールポイントがあれば記載します。定期的に実施するセールやキャンペーンの計画など、収益を上げるための戦略や効率的な運用計画なども盛り込むことで、読み手に事業に対する将来性や成長の可能性を見出してもらいます。
サービス提供や商品開発のために他社の技術やライセンスなどが必要であれば、後のトラブルを防止するためにも参照情報として盛り込んでおきましょう。
資金計画と損益性を明確に
事業を始めるために必要な資金を自分で準備することができなければ、調達する必要があります。国や自治体の補助金・助成金制度を利用したり、金融機関などから借り入れることができますが、金額や条件などを含めて資金調達に利用した手段を事業計画書に盛り込みましょう。返済方法についても計画的に記載します。参考:補助金等公募案内(中小企業庁)
事業の開業・展開にはどれくらいのお金が必要で、今現在はどれくらいお金が準備できていて、今後はどのように収益を増やしていくかなどについて細かく説明します。
お金に関する計画は、開業・運用資金のみでなく、目標としている日々の売り上げ、そこから引かれる経費(家賃や人件費など)、残る利益などまでを含めるようにします。しかし、ここで用いる数字は現実的なものでなければなりません。市場の現状や事業の規模など様々な要因を考慮した上で、売上目標や想定収益が明らかに実現不可能と思われてしまっては、融資を受けることが難しくなります。
語れることが大事
前述の通り、事業計画書とは、経営者自身のためにも従業員のためにも経営方針の詳細を理解・再認識するために重要な役割を果たしています。そして、事業内容を外部関係者に対して明確に提示するための手段の一つにもなります。
経営者は、事業計画書に書かれている内容の全てをよく把握しておく必要がありますし、質問を受けた場合にははっきりと答えられなければなりません。事業計画書が手元に有る無しに関わらず、自分の事業をいつでも説明できるような姿勢が経営者には求められます。
エレベータートークという言葉があるように、他者に対して短時間で自分の事業を簡潔且つ明確に説明できるようにしておくと、思いがけない場面で様々な人に事業に興味を持ってもらうチャンスがあるかもしれません。融資や業務連携を検討するために事業計画書を見せて欲しいと依頼されることもあるかもしれません。このような事態に備えて、業務計画書はしっかりと作り込んでおく必要があるのです。
執筆は2017年4月3日時点の情報を参照しています。
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