中小企業や個人事業主にとって、ダイバーシティとインクルージョンは今すぐ役立つマーケティングのキーワードです。具体的にどのようなメリットがあるのか、用語の定義からビジネスの現場でのインクルーシブ・マーケティングのプロセス、実践の注意点まで、ニッチな市場にアプローチをするだけではないマーケティング戦略のあり方を解説します。
ダイバーシティとは
ダイバーシティ(diversity)とは、日本語で多様性と表現される概念です。国籍、性別、職業、年齢、所属などといった属性から、家族構成、身体的特徴、趣向、思想、信条などさまざまな点において多様な価値観や存在を肯定することを前提とするのがダイバーシティの考え方です。
たとえば人材市場で「ダイバーシティを尊重する」といえば、多様性のある雇用を意味し、個人の属性で差別や区別をせず採用するという意味になり、平等を重んじる企業文化を表しているともいえます。
インクルージョンとは
インクルージョン(inclusion)とは、包括、包含、包摂などと訳される言葉です。字の通り、包み込み、含むことを意味しています。対義語がエクスクルージョン(exclusion、排除)であることからもわかるように、インクルージョンは属性の異なるものも排除せず、共に尊重することを当たり前とする価値観です。
用語の使用例として「ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)」という表現があります。障害などにより社会的にマイノリティーとなりがちな人を排除せず取り込み、共に尊厳ある生活をすることで社会全体の幸福度の向上を目指すものです。ダイバーシティを重んじた社会のあり方が、インクルージョンの実践に集約される、ということもでき、二つの概念は平等や個々の尊厳を重視するという共通点があります。
ダイバーシティやインクルージョンとマーケティング戦略の関係
ダイバーシティやインクルージョンといった概念は今、ビジネスの世界で存在感を増しています。その背景には、国連が打ち出したSDGs(Sustainability Development Goals、持続可能な開発目標)という行動指針があります。
SDGsは「貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指す普遍的な行動」を呼びかけるもので、ダイバーシティやインクルージョンの考え方を反映しています。
国連は各国政府を通じて産業界に対し、SDGsをベースにしたビジネス活動を推奨しており、日本でもすでに中長期の経営戦略などの中でSDGsの17のゴールを目指す事業やガバナンスの青写真を描いている企業があります。例としては、ジェンダーの平等、貧困の撲滅、教育や医療の偏在是正などに貢献するビジネスが挙げられます。
企業にとっては、SDGsに即してダイバーシティやインクルージョンなどを実践するにより株主や消費者から高評価を得ることができ、企業価値そのものがアップすることが期待できます。大企業に限ったことではなく、中小規模も含む全てのビジネスにいえることで、マーケティング戦略においてダイバーシティやインクルージョンをテーマにすることも普及しつつあります。
インクルーシブ・マーケティングはスモールビジネス向き
ダイバーシティあるいはインクルージョンを標榜するマーケティングを、インクルーシブ・マーケティングとも呼びます。インクルーシブ・マーケティングはただマイノリティー(少数派)を対象にしたビジネスというだけでなく、マイノリティーかマジョリティー(多数派)かに関係なく課題解決が必要な人やシーンに創造的なソリューションを提供し、総合的に社会の幸福度をアップさせるためのマーケティングという文脈で用いられることが一般的です。
マス市場だけでなく、これまで目を向けられてこなかった小さな需要もすくい上げるこのトレンドは、大企業だけでなく、小規模な需要に対応しやすいビジネスにとっても大きなチャンスとなり得ます。商品やサービスの企画から実現までを簡潔なプロセスで実行できるような、小回りの効くスモールビジネスや、特殊なニーズを持つ個々のクライアントの要望にもスピーディーに応じる個人事業主などは、大企業にはない、ダイバーシティやインクルージョンに対応しやすいというビジネス特性を有しています。
いわばこれまで叶えることができずにいたダイバーシティやインクルージョンの要望を、スモールビジネスが叶えることで、その柔軟さや存在感をアピールしやすい時代が到来したといえます。
中小企業、個人事業主の戦略立案ステップ
実際に中小企業や個人事業主がダイバーシティやインクルージョンをテーマにマーケティング戦略を立案する際には、以下のステップが考えられます。
1, 社会課題を見出す
まずは身近なところにアンテナを張り、社会課題、困りごとを見つけます。当事者の目線になって社会を見る習慣を持つ、課題を抱える人から話を引き出すといった方法が考えられます。
2, ビジネスの専門性×社会課題
社会課題を見出しても、自社の専門性、独自性がその領域にビジネス・ソリューションを提供できる場合とできない場合があるのが現実でしょう。そこで重要となるのは、自社の持つリソース(技術、能力、人材など)が課題領域に提供できるソリューションのアイデアです。
ダイバーシティやインクルージョンをビジネスで実現するために、自社の専門性をどのように生かすかというアイデアを挙げるには、クリエイティブな発想力が必要です。もしソリューション提供のための不足要素が明らかになれば、他社との協業、コラボレーションで課題解決をするという方法もあります。
3, ホワイトスペースを探す
自社の専門性やリソースで解決でき得る社会課題を認識したら、次は、すでに優れたソリューションが存在しないか、あるいは他社の取り組みが進行中ではないかをリサーチする必要があります。その上で、さらに優れたソリューションを提供できると判断した場合、他社が取りこぼしている市場のホワイトスペースにいち早く参入できます。すでに参入者がいる場合も、競合性については入念にリサーチを行った上で、シェア獲得のポテンシャルがあると分かれば参入を検討します。
4, 戦略を立案する
ダイバーシティやインクルージョンの必要性を満たすマーケティングは、この時点ですでにターゲティングが概ね完了しているため、自社の技術や能力でターゲットに何を提供できるか、ターゲットに合致したマーケティングや販売のチャネルは何か、どのような言葉やイメージでソリューションをPRし届けていくか、といった戦略の詳細が決定しやすいといえます。
たとえば、聴覚の障害を持つ人がターゲットであれば、利用しやすいメディア、アクセスしやすい広告などはある程度限定されてきます。各チャネルの特性などを当事者目線で調査するという点は、他のマーケティング戦略と何ら違いはありません。
上記の四つのステップの他にも、自社ビジネスの再定義という観点からインクルーシブ・マーケティングを導入することも可能です。たとえばデザイン会社であれば、ビジュアルという要素を認識可能な全ての人に何らかのソリューションを提供できるポテンシャルを持っています。クライアントからの要望に応じるだけでなく、ダイバーシティやインクルージョンを念頭に置いてビジネスを捉え直してみましょう。
インクルーシブ・マーケティングの注意点
ダイバーシティやインクルージョンをマーケティングで実現する上での注意点は、マス側の視点からアプローチしないということです。たとえばマイノリティーを「不幸でかわいそうな存在」という見方で捉えてしまえば、当事者の視点や人間性、尊厳を軽んじたマーケティングになる危険性があります。ニーズだけでなくターゲットそのものに寄り添う価値観が、ダイバーシティやインクルージョンの考え方を実現するマーケティングにつながり、ひいては市場における企業価値の最大化につながるはずです。
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執筆は2019年6月21日時点の情報を参照しています。
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