【商いのコト】農家のあり方が問われる時代—名倉メロン農場の6次産業化

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つなぐ加盟店 vol. 8 名倉メロン農場 名倉 光子さん

メロンの街から生まれた、おいしさ第一主義のメロン農家

「ほとんどが直販、もしくは自分たちで運営するカフェのお客さまに食べていただいています。おいしくなければ『次』はありません」

クラウンメロンで有名なメロンの町、静岡県袋井市にある名倉メロン農場を経営する名倉光子さん。メロン栽培だけでなく、カフェを通じてメロンの美味しさをお客さまに直接届ける、「6次産業化」にいち早く取り組んだメロン農家だ。

名倉メロン農場では、複数の温室ハウスそれぞれに時期を少しづつずらしてメロンを栽培している。苗の状態から収穫直前のものまで、バラバラに育てることで、一年を通して美味しいメロンを提供できる。

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もちろん、育てたメロンすべてが1等品になるとは限らず、2等品・3等品が出ることも。

「以前は、2等品・3等品があったときには近所の八百屋さんに買ってもらっていました。八百屋さんに行ったときに『1個300円でよかったら買い取るよ』と言われ、『お父さんがあれだけ苦労して作ったのにもったいない』と思い、売りたくないので老人施設に持っていったりしたこともありました」

けれども、これではだめだと思い、一個あたりの原価計算を厳密にして、売る方法を考えた

自分たちが作ったメロンの価値を自分たちで見極め、適正な形で売る方法としてシャーベットづくりをスタートさせた。イタリアンのシェフに相談しながら試作を繰り返し、3ヶ月掛かりでようやくシェフの及第点をもらった。

カフェを通じて、メロンとお客をダイレクトにつなげる

もともと「自分のお店をもちたい」と思っていた光子さん。近所の喫茶店でシャーベットを出したことがきっかけで、雑誌でも特集されるなど名倉メロンのシャーベットは評判になってきた。2000年の農地法改正で、農地でも簡易的な加工・販売施設を持つことができるようになったことをきっかけに、カフェづくりに奔走し始めた。

「ケーキを焼く練習をしたり、あちこちにメロンジュースを飲みに行ったりしました。そして2001年には念願の農家カフェをオープンさせることができました」

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「メロンは高級なフルーツのイメージがあって、若いお客さまがはじめは多くありませんでした。しかし、カフェがあることで若い層が食べに来てくれて、味を確かめて、結婚の内祝いや入学の内祝いなどで買ってくれるようになりました。1/8カットからのメニューで試食体験がしやすいことで、新しいお客さまがつくようになりました

カフェづくりの原点は、「メロン産地なのにメロンを買えない、食べられない」という友人の言葉がきっかけだと話す光子さん。やっと、つくりたかった世界観が実現した、と話す。

「おいしい食べ方も知らない、食べるところもない、1個丸々まるまると買うのはちょっと高いし、食べきれない……。そういうすべての言葉を受けて、メロン産地としての農家カフェがあります。カフェを始めて、地域の人たちにあらためてメロンの存在を認知してもらえるようになりました。地域の人たちが誇れる農産物になっていく、と確信しました」

農家が考える”おいしい”と、お客さまが考える”おいしい”

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カフェのオープン当初は、農家が考えるおいしい食べ方で出してた。しかしそれではお客さまの満足度は低かった。

「その頃の私たちの『おいしい基準』は、品評会を基準にしていたため皮ぎしが硬かった。3ヶ月後に『ひょっとして…』と思い熟度が増したものを出すようにしたら、途端に評判がよくなりました。そこで、『お客さまの求めるおいしいというのはこういうことなんだ!』ということがよくわかりました

「それは、すっとナイフが入るくらいの状態。市場流通にはのらない熟度のものだったんです

そうした経験から、メロンカフェでは「おいしい食べごろで出す」というコンセプトにたどり着いた。

お客さまを見るか、市場流通を見るか—それが違い

多くの農家は、農協などと提携して市場流通をメインにしており、それによって商品づくりに専念することができる。しかし、名倉メロンは直販やカフェを通じて、一つ一つ丁寧に自分たちの手で販売している。

「わたしたちのメロンが評価を得られているとすれば、『余分なもの』をそぎとったメロンだから。余分な農薬を使わず、環境にやさしい方法や品種にもこだわり栽培方法も大きく変えました。お客さまを見るか、市場流通を見るか。それが違いではないのでしょうか」

「市場流通の場合は、仲買い人や小売業者さんが求めるものをつくる必要がありますが、私たちは、最終的な評価をくだすお客さまのためにメロンをつくっています。直接、お客さまの手にとってもらうからこそ、お客さまの価値感がどこにあるのかを意識し続けています

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農家としてありたい姿を目指して

農家でありながら、自分たちでカフェも運営することで直接お客さまの喜ぶ顔を見るようになり、これこそが自分たちの喜びや生きがいになると思った光子さん。その顔が見たかったので、市場流通させるためのメロンづくりを続けることは、ありえなかったと話す。

市場流通だと、私たちにはクレームの連絡しか届かないし、対価の額にだけ価値を感じることになってしまう。しかしカフェをやることで、お客様に喜んでいただくことが自分にとっての価値になりました。メロンを手にするお客さまたちのことを知って、はじめて自分の目標ができたと思います」

人の価値観が多様化してきているなか、すべての層に向けて販売するという手法が通用しなくなってきている。一方で「あの人がつくったものを買いたい」、「あの人のおすすめの食べ方をやってみよう」という人は増え続けている

最近では、『お客さまから農家の顔が見えると良い』ということを聞くけれど、それは逆。『農家からお客さまの顔が見えるのが良い』。そうならないと、農家の生き方や作り方が変わってこない。小さな農場でも生きがいをもって活動し、自分のファンをつくることがこれからの農家の姿ではないでしょうか」

「そうした農家ほど、SNSなどを活用して直接お客さまとつながっていますオープンな農家から、その人の作り方や考え方を知ることができる。そういうあり方が、これから生き残る農家の姿だと私は思っています」

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「農家のあり方が問われる時代。農家側が受け身だけではなく、独自のポリシー、こだわり、スタイルがないと難しい時代。けれども、やればきちんと形になる時代でもあるなと思います」


【秘話】メロン職人「お父さん」— 機械では測れない、人の五感と感性で美味しさを生み出す

名倉農場では、外観よりも味だけを選んで作り続けることができる。市場流通は競争相手がいるが、名倉メロンは「昨日よりも少しでも食味の良いものを、ただひたすらに追い求めれば良い」からだ。水を使う環境にもこだわっている。60メートル下を流れる地下水は、小笠山に30年前に降った雨だ。その水がメロンを後味さわやかな味に仕上げてくれる。

毎日の水かけも重要だ。「メロンがおいしくなるために、俺は少しお手伝いをしているだけ」と語るのは、お父さん。しかしながら、人の手による生育にも全力を注いでいる。水やりの温度や湿度管理を自分の肌で感じながら微調整を行っている。そのために、Tシャツに海パン姿でつねに作業している。

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お父さん曰く「以前、コンピューター中心で管理をしはじめたら自分の肌感覚が落ちた」とのこと。それによって、やはりメロンづくりにも影響したとか。「コンピューター化しすぎたらできが落ちたので、やはり人の感性は大事」だということに気づたそう。

「昔の農家には、自然の気候を読み解く力があり、雲の動きをみて天気を予知できた。今でも、お父さんは朝はやくや夜おそくにもメロンの様子を見に行く。植物は夜に語ってくれるようで、その語る言葉を聞いて、明日の朝に与える水の順番を決めているんです。常にメロンと身体で対話しているんです」

名倉メロン農場カフェ fruit cafe NiJi
名倉メロン農場
静岡県袋井市山崎 4334
0537-48-5677


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文/Squareつなぐ編集部

写真/小澤 亮