意外と知らない? 労働条件通知書と雇用契約書の違いとは

※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。

従業員を雇用するときに必要な書類として「労働条件通知書」と「雇用契約書」があります。この二つの書類は似ているようですが、厳密には違うものです。

今回は意外と知られていない、労働条件通知書と雇用契約書との違いについて解説し、さらに労働条件通知書の書き方も紹介します。

労働条件通知書とは

労働条件通知書とは、正社員やパートタイム従業員など労働者を採用した際に必要となる書類の一つです。簡単にいうと、いくつかある労働条件を労働者に知らせるために送る書類です。雇用主は、労働基準法施行規則第5条第1項により定められた事項に則って、採用した労働者に働く時間や給与などを明確にする必要があります。さらにこの労働条件通知書は、労働基準法で通知をすることが定められており、これを怠ると罰則の対象となるので注意が必要です。

参考:採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。(厚生労働省)

現在この労働条件通知書は紙だけでなく、メールやファックスなどで通知することが可能になりました。電子化が認められたのは、2019年の4月です。まだ日も浅いので、あまり知られていません。もちろん紙でもメールなどでも明示する内容は同じです。ただし原則としてメールなどで対応するのは、労働者が希望をした場合のみです。労働条件通知書が電磁的方法で送付できることを雇用主が労働者に告知する義務はありませんが、ケースバイケースで対応すると親切です。

参考:平成31年4月から、労働条件の明示が FAX・メール・SNS等でもできるようになります(厚生労働省)

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労働条件通知書と雇用契約書の違い

労働基準通知書について、簡単に紹介しました。それでは次に、雇用契約書と労働条件通知書の違いについて説明をします。

雇用契約書は労働契約書とも呼ばれ、労働者を採用した時に必要な書類の一つですが、実は任意の書類です。契約書という名の通り、雇用者と労働者がお互いに条件を確認し、合意したことを証明する書類ですが、労働に関する契約は口頭でも成立するため、必ずしも書類が必要なわけではありません。

ではなぜ、雇用契約書が存在しているかというと、労働契約法第4条の存在があるからです。労働契約法第4条では以下のように定めています。

使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

簡単にいうと、労働条件や契約について理解を深めてくださいという内容が盛り込まれています。さらに、労働内容はできるだけ書面で確認をするようにと明記されています。口頭だけの契約では、実はお互いの認識に違いがあったなど、労使間のトラブルにつながる可能性も高くなります。事前にトラブルを防止するためにも、口頭だけでなく、書面による確認が推奨されています。

まとめると、労働条件通知書は義務として雇用主が採用者に条件を通知する書類です。一方で雇用契約書は任意のもので、雇用主と採用された労働者の双方で書類を確認します。不明点などを協議しながら書類作成を進めて最終的に署名、押印をして双方で保管をします。採用が決まった労働者には雇用の条件を示した労働条件通知書を提示し、加えて雇用契約書も交わすのが理想の形です。

近年はいわゆるブラック企業の存在がクローズアップされて、雇われる側がナーバスになっていることもあります。労働条件通知書と雇用契約書の両方を手配しておけば、採用後のトラブルが防げる効果が期待できます。

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労働条件通知書の必要な記載事項について

ここでは、労働条件通知書の必要な記載事項について解説をします。まず始めに労働条件通知書は、採用者の労働条件の決定について権限を持つ者が作成をすることが原則です。そのうえで者に通知をします。なお労働条件通知書は、雇用形態に関わらず明示する必要があります。具体的にいうと正社員やパートタイム従業員、アルバイト従業員、派遣社員などです。

明示が必要な事項としては、以下の通りです。

・契約期間
・就業の場所
・従事すべき業務の内容
・始業、終業の時刻、休憩時間など
・休日、休暇、および勤務日
・賃金
・退職に関する事項(解雇の事由含む)

以上に関する事項は、書面の交付が必要です。場合によっては、安全衛生に関する事項や、職業訓練に関する事項その他を明記する必要もあります。

なお、契約期間については「期間の定めあり」とした場合のみ詳細を記入します。さらに雇用形態によっては義務付けられている記載項目が増える場合があります。たとえば、パートタイム従業員の場合は、パートタイム労働法により新たに明示が義務付けられている事項が「昇給・賞与・退職金の有り無し」です。それでは次に、具体的な書き方を見ていきます。

参考:パートタイム労働者の適正な 労働条件の確保のために(厚生労働省)

労働条件通知書の書き方例

労働条件通知書には決まった書き方はありません。必要な記載事項が漏れていなければ、書き方は比較的自由です。書き方のポイントを、厚生労働省のひな形(一般労働者用)を使用して紹介します。

契約期間
期間の定めなし、期間の定めありどちらかに丸をします。契約期間の定めありにした場合、具体的な期間、契約更新の有無、更新の判断基準を記載します。

就業の場所従事すべき業務の内容
それぞれ具体的に記載をします。また、将来の就業場所や業務内容を記載しても構いません。

始業、終業の時刻、休憩時間、 就業時転換、所定時間外労働
始業と就業の時間、休憩時間などを記載します。なお休憩時間は6時間勤務を超えれば45分、8時間勤務を超えれば1時間が必要となります。また、参加が必須な朝礼なども労働時間に含まれます。なお変形労働時間制を採用する場合は、業務に沿って内容を書き込んでください。

基本賃金
月給、日給、時間給など該当箇所に具体的な金額を記載します。なお各都道府県の最低賃金を下回らないように注意をしましょう。

諸手当の額または計算方法
変動するものがある場合はそちらも記載します。

所定時間外休日または深夜労働に対して支払われる割増賃金率
いわゆる残業代のことです。

賃金締切日、賃金支払い日、賃金の支払い方法
社内規定通りの具体的な日付、方法を記載します。

労使協定に基づく賃金支払い日の控除は有無
有る場合は何を控除するのか記載してください。

退職に関する事項
採用時に明確にして書面にする必要があります。その他、雇用保険の適用の有無、社会保険の加入状況などを記載します。なお記載が完了した労働条件通知書についてはコピーなどを取って保存しておきます。

労働条件通知書の記載事項はできれば専門家にチェックをしてもらい、定期的にレクチャーを受けると安心です。また労働条件通知書の記載内容や、制度そのものがよく分からない場合も専門家に相談をしたほうが無難です。であれば総務や人事担当者だけでなく、ビジネスオーナーも労働条件通知書についてはしっかりと把握をして、雇用に関する知識を蓄えておくと安心です。

執筆は2019年9月27日時点の情報を参照しています。
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