ネットショップを立ち上げたときに迷うものの一つに、商品の販売価格の設定があります。高すぎたり低すぎたりせず、利益を確保して経営が持続・発展するための価格設定は、商品そのものだけでなく、ショップ全体のブランドイメージにも関わる重大な経営戦略です。
具体的な設定方法は業種やショップの種類によっても異なりますが、基本的な考え方には法則があります。ここでは、持続的な経営を可能にする価格設定について、基本的な考え方と計算方法、値決めの際の検討ポイントや留意点について、わかりやすく解説します。
目次
販売価格のしくみを知ろう
はじめに、商品を販売するにあたっての価格設定について、基本的な考え方を把握しておきましょう。
ものを売るときの売り上げの基本は、「原価」+「利益」、です。
原価は、商品やサービスを生み出すまでにかかったコストを指します。商品を仕入れたときの金額をイメージすることが多いかもしれませんが、販売までには、その他にもさまざまな費用がかかっています。
売上額から原価を差し引いた額は利益となります。利益の中には、事業を維持するために必要となる運営面の費用も含まれています。たとえば、販売に関わった従業員の人件費、営業や商品開発(※)にかかった費用、ショップサイトの維持にかかる費用などがあります。
※これらの経費については原価に按分して足し合わせる考え方もありますが、本記事では説明をシンプルにするため、原価と切り分けています。
販売価格の最低ラインは「原価」に注目
販売価格を決めるときの目安として原価に着目しましょう。原価は最低限の価格ラインで、これを下回ると経営が成り立ちません。
原価を計算する際には、商品を販売するために直接支払った費用を計上します。ネットショップで商品を仕入れて販売する場合、次のような項目が挙げられるでしょう。
- 仕入れ価格
- 加工手間などの作業費
- 配送・梱包費
- ネットショップの販売手数料
「原価=仕入れ値」ではないことに注意が必要です。また、事業を維持するためには原価以外に次のような運営の経費がかかっていることも忘れてはいけません。
- 商品が特定されない人件費
- 営業・販売・広告費
- 総務・労務関連費
- 家賃・光熱費・通信費など
- 資格や技術取得、商品開発などに必要となった費用
特に、商品を仕入れてそのまま販売する小売業以外の業種(製造業や飲食サービス業など)の場合、人件費や施設設備費などが大きなコストとなります。原料となる仕入れの原価は少なくても経費がかかっているわけです。
販売価格の基本的な計算方法
原価に注目した販売価格の基本的な算出は、原価を原価率で割って計算します。
原価から決める計算例
販売価格を決める計算式は、「販売価格」=「原価」÷「原価率」で表されます。
たとえば、原価が1,200円の場合、原価率が30%だと、販売価格は1,200円÷0.3=4,000円となります。
原価率の考え方
原価率は、売り上げに対して原価の占める割合で、「原価率」=「原価」÷「売上」で計算します。
原価率は業種によって大きく異なります。たとえば、仕入れた商品をそのまま売る場合だと、仕入れたときの費用の割合が大きいため、原価率は高くなります。一方、素材を仕入れて自分で作って販売する場合だと、人件費や設備費などの間接的な費用が大きくなるため、原価率は低くなります。
事業を始めたばかりで総売上に対する原価の割合が算出しづらい場合、少し以前のデータにはなりますが、経済産業省が1998年にまとめた商工業実態基本調査が参考になります。調査によると、中小企業の業種別売上総利益率の平均は、卸売業11.8%、小売業27.6%、飲食業56.8%となっています。
利益率と原価率は裏返しの関係になるため、ものを加工せず仕入れたままで販売する業種ほど原価率が高く、加工して商品を作ったり人的サービスをつけて提供したりする割合が高い業種ほど原価率は低くなるわけです。
たとえば、原価が同じ1,200円の場合でも、売り方によって次のように販売価格が変わります。
商品を小売に卸す卸売業:原価率80%とすると 1,200円÷0.8=1,500円
商品をそのまま販売する小売業:原価率50%とすると 1,200円÷0.5=2,400円
独自商品を作って販売する小売業:原価率30%とすると 1,200円÷0.3=4,000円
料理して提供する飲食業:原価率20%とすると 1,200円÷0.2=6,000円
従業員を雇い、店舗を借りて営業している飲食業で原価率が高くなると、原価に乗せていない人件費や間接経費が利益を上回り、赤字になってしまいます。
このように、売上、原価、経費など、自社のお金の状況を正確に把握し、業種に応じてどの程度の原価率が健全なのかを知っておくことが重要です。
価格の設定は売り手と買い手の価値のすり合わせ
原価から考える価格設定は、販売する側の視点です。しかし実際には消費者が買ってくれなければ売り上げにならず、売れるための価格のラインとのすりあわせが必要になります。
売りたい価格と買いたい価格には開きがあるものです。価格とは商品の価値を定めることです。価格設定は、原価よりは高く、買い手が「ここまではお金を出していい」と考える範囲の中で最も高いラインをみつける「価値の見極め作業」といえます。
買い手の視点に立ったときの価格設定については、次のような検討ポイントがあります。
市場の競合から考える
他のショップなど市場で競合する類似商品の平均販売価格を参考にして価格を設定する方法です。平均的な価格に対し、同程度にするか、低くするか、高くするかで戦略が変わります。
平均的価格と同程度にする場合、同じフィールドに参入するわけですから、広いターゲットに商品を売り込んでいくことができます。もっとも基本的な考え方です。
平均的価格より低く設定する場合、入手しやすさから注目を集め、競合する他のショップから顧客を奪うことができるかもしれません。ただし、過度に低い価格にするのと、売れれば売れるほど赤字になってしまう可能性があるので注意しましょう。
平均的価格よりあえて高く設定し、市場の平均的商品より価値を高くみせる方法です。商品やサービスの質の高さなどにより、ワンランク上の買い物体験を提供します。高級感を演出することに成功すれば、高い価格設定でも肯定的に受け止め、購入行動につながる可能性が高まります。
需要の方向から考える
市場のトレンドと顧客ニーズから価格を変動させる考え方です。需要があるときには値段を高く、そうでないときには低く設定します。主に季節商品や、消費者ニーズの変化を感じたタイミングで行います。歳末の売出しや初売り、ブラックフライデーやサイバーマンデー、季節ごとのバーゲンなどのタイミングも有効活用しましょう。
商品のライフサイクルから考える
出始めのころは高く、徐々に価格を下げる方法です。家電など、新製品が出るタイミングで旧製品を値引くなどの方法が知られています。
これに対し、価格を徐々に上げていく方法もあります。出始めのころは市場平均価格より低めに設定して多くのターゲットへ浸透させ、顧客が集まりだしたら段階的に価格を改定していくものです。
自社の他の商品との兼ね合いで考える
商品をセットにした価格設定にし、個別に買うよりお得感を出す方法です。抱き合わせ価格とも呼ばれます。低価格に設定した目玉商品で顧客をひきつける戦略もあります。
心理的効果を活用する
購買時の顧客の心理を考慮した価格設定もあります。有名なのは「松竹梅」の考え方です。3種類の値段があると中くらいを選びたくなる心理を利用し、最も販売したい商品を中価格帯にもってくるよう前後の価格を設定します。
また、980円や1,980円など、価格を端数にしてお得感を演出する方法もあります。
販売価格を決める際の注意点
販売価格の設定は、消費者の動向を見ながら原価率を目安に利益の出るラインを見定めていく作業です。見極めの際には次のような点に注意しましょう。
価格は定期的に見直そう
価格設定にはさまざまな考え方や計算方法があります。苦労して設定した価格はそのまま続けたくなるところですが、定期的に見直しましょう。社会は常に変動し、価値観は変化します。市場のニーズも顧客層も変わっていきますし、原価や経費などのコストも増減する可能性があります。変化に応じた販売価格の見直しは必須です。
季節ごと、流行の変化を感じたとき、仕入れ価格が変わったときなどが見直しのタイミングです。競合が価格を変更する前に先手を打ちましょう。
売りたい価格が市場の価格帯と合わない場合の対処法
希望する販売価格より市場の価格帯が低く、利益が確保できない場合、次のような方法ですりあわせていく必要があります。
原価を下げる:完成品でなく加工材料を仕入れて商品を内製化するなど
経費を下げる:広告費や固定費、管理費といった原価以外のコストを見直すなど
利益を下げる:その商品では利益を出さないと割り切り、他の商品でカバーするなど
上記の方法で価格を抑えることはできるものの、商品の販売数が大幅に伸びないと総売上が低下し、経営の体力が落ちる要因になります。また、商品に対する満足度が下がってショップのイメージが低下するなど、悪循環になるかもしれません。
価格競争にはできるだけ巻き込まれないよう、高価格でも買いたくなる付加価値をつける戦略で商品を育てていくことを目指しましょう。
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執筆は2021年4月28日時点の情報を参照しています。
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