改正著作権法が、一部を除いて2019年1月1日から施行されました。今回の改正は、主にデジタルに関する内容が大きく変更されたため、ビジネスの幅が広がることが期待されます。しかし、「何がどう改正されたのかよくわからない」という人も多いかもしれません。今回は、ややこしい法改正の内容について、わかりやすく解説します。
著作権法改正の概要
今回の改正ポイントは、大きく四つに分けられます。文化庁では以下のように説明しています。
①デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備(第30条の4、第47条の4、第47条の5等)
・著作物の市場に悪影響を及ぼさないビッグデータを活用したサービス等のための著作物の利用について、許諾なく行えるようにする。
・イノベーションの創出を促進するため、情報通信技術の進展に伴い将来新たな著作物の利用方法が生まれた場合にも柔軟に対応できるよう、ある程度抽象的に定めた規定を整備する。
②教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備(第35条等関係)
・ICTの活用により教育の質の向上等を図るため、学校等の授業や予習・復習用に、教師が他人の著作物を用いて作成した教材をネットワークを通じて生徒の端末に送信する行為等について、 許諾なく行えるようにする。
③障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備(第37条関係)
・マラケシュ条約(障害者が著作物を利用しやすくするための条約)の締結に向けて、現在視覚障害者等が対象となっている規定を見直し、肢体不自由等により書籍を持てない者のために録音図書の作成等を許諾なく行えるようにする。
④アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等(第31条、第47条、第67条等関係)
・美術館等の展示作品の解説・紹介用資料をデジタル方式で作成し、タブレット端末等で閲覧可能にすること等を許諾なく行えるようにする。
・国及び地方公共団体等が裁定制度を利用する際、補償金の供託を不要とする。 ・国会図書館による外国の図書館への絶版等資料の送付を許諾無く行えるようにする。
改正の経緯
日本政府は、IoTやAI、ビッグデータといった情報技術を重視し、生産性向上やイノベーション創出を推進しています。しかし、そこで壁になっていたのが著作権法でした。
日本の著作権法は、「利用目的や場面がある程度具体的に示されている」という特徴がありました。逆にいえば、明文化されていないかぎり、形式的には「違法」になってしまう、ということです。技術を活用するには、著作物の利用が欠かせません。しかし、「著作権法に書かれていない」という理由で積極的な著作物の活用ができない、という問題点が指摘されていました。そこで求められたのが「柔軟性の高い権利制限規定の整備」であり、今回の改正につながりました。
著作権法改正がビジネスに与える影響
ビジネスオーナーとして注目したいのが、以下の三項目です。
・第30条の4:著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用
・第47条の4:電子計算機における著作物の利用に付随する利用等
・第47条の5:電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等
参考:著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)について(文化庁)
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
第30条の4:著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用
まず、「著作物に表現された思想又は感情の享受」について説明します。簡単にいえば、著作物(文章、絵、映像など)を鑑賞することは、鑑賞対象から思想や感情(勉強になった、面白かったなど)を受け取る行為、と言い換えられます。そして、その行為を目的とする場合には相応の対価が必要、ということです。
一方で、思想や感情の享受を伴わずに著作物を利用したいケースがあります。たとえば、
・人工知能の開発やディープラーニングのため、大量のデータを入力する
・読みたい本の情報を検索し、サンプル部分を読む
・論文の盗用がないかを調べるため、大量の論文データを解析する
などです。
今までは、これらのケースは、権利者から利用に関する許しを得なければならない可能性がありました。しかし改正によって、利用目的や方法に関係なく活用できるようになりました。
第47条の4:電子計算機における著作物の利用に付随する利用等
電子計算機とは、コンピューターのことを指しています。改正前の法律でも、キャッシュのための複製やコンピューター修理のための一時的複製など、一部の行為については著作権利者の許諾は不要でした。しかし、利用目的や方法が限定的だったため、もっと広くカバーできるような内容に変更されました。コンピューターのキャッシュや、データ消失に備えたバックアップなどの場合は、無許諾でコピーなどができるようになっています。
第47条の5:電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等
こちらも、改正前は利用目的などが限定的であったものを、現在や将来的なニーズに対応するために包括的な要件に変えた、というものです。具体的には、今まではインターネットで検索エンジンを使うための複製だけに許されていた無許諾を、アナログ情報も含めた検索サービスなどにも対象を広げました。また、今後新しく生まれるかもしれないニーズを見据えて、「新たな知見・情報を創出する行為であって国民生活の利便性向上に寄与するもの」という抽象的な要件が加えられました。
著作権法改正により、ビジネスが受ける影響
デジタル化・ネットワーク化の進展を見据えた改正だけあって、特にAIモデル開発には追い風が吹いたと考えられます。ディープラーニングで使われている「代数的」「幾何学的」な解析は、都度権利者の許可を取らなくても問題なくなりました。さらに、AI開発用データセットを複数の事業者で共有することもやりやすくなりました。
このように、権利者による許諾の手間が省けるようになったことで、デジタル系のビジネスの成長が期待できます。
著作権法改正に伴い、注意したい点
今回の改正で、利用方法や目的を問わず、無許諾で著作物を利用できる範囲が広がりました。しかし、なんでもかんでも使い放題、というわけではありません。当然ながら「著作権者の利益を不当に害する場合」は、この限りではないことに注意しましょう。また、今回の改正では、「必要と認められる限度」や「軽微な利用」など、明確な基準とはいえない表現も使われています。今後、政令やガイドラインが示される可能性もありますので、政府の動向を気にかけておきましょう。
今回の著作権法改正によって、著作物の利用がやりやすくなりました。政府が後押しする中で、AI開発などでイノベーションの創出が期待されます。この記事を参考に改正著作権法の内容を押さえ、ビジネスの参考にしてください。
関連記事
・ 個人事業主がクレジットカード決済を導入するヒント
・全ての事業者必見!改正個人情報保護法の変更ポイント
執筆は2019年7月2日時点の情報を参照しています。
*当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。
*Photography provided by, Unsplash