マーケティングに欠かせないオンライン広告は、アドフラウドによる大きな被害を受けています。広告主に損害を与えるアドフラウドに適切な対策を採り、広告費の無駄をなくすことは、ビジネスオーナーにとって喫緊の課題といえます。アドフラウドとは何か、その実態や手法を知り、対策を考えていきましょう。
アドフラウドとは何か
アドフラウド(Ad fraud)は、ボットなどのツールを使いオンライン広告に対する不正行為を働くことで広告主に損害を与えることを指します。広告不正や広告詐欺などと訳されることもあり、日本のみならずグローバルのオンラインマーケティング市場に、アドフラウドは見逃せないほど甚大な被害を与えています。
日本のオンライン広告の研究調査を行うアドベリフィケーション推進協議会が2018年に発表した報告書によると、オンライン広告全体のうち約9%がアドフラウドの被害を受けていることがわかっています。つまり10件分のオンライン広告費のうちおよそ1件分は、自社に利益を生まないどころか、不正行為を働く人のために浪費されている計算です。
日本のオンライン広告市場の規模は、1兆7,589億円(2018年)。そのうちの9%、約1,583億円がアドフラウドの食い物にされ、無駄なマーケティング費用として使われているということになります。
日本ではまだまだ認知度が低いといわれるアドフラウドの被害を防ぐために、まずはアドフラウドの実態を知り対策を立てることで、マーケティング費用の無駄を減らしましょう。
参考:
モメンタム、「アドベリフィケーション推進協議会」において、国内での実態調査レポートを公開(2018年1月24日)
2018年のインターネット広告媒体費は1兆4480億円に。モバイル+動画広告の伸びに注目(電通報)
アドフラウドの手口と種類
アドフラウドの手口を理解するために、まずオンライン広告の仕組みを再確認しておきましょう。オンライン広告には大まかに、以下のようなステークホルダーが存在します。
・広告主
・広告配信事業者(広告代理店)
・掲載媒体
・ユーザー(広告を見る人)
掲載媒体とは、広告を出稿(掲載)するメディアサイトやブログなどの媒体です。掲載媒体の運営者は、掲載された広告がクリックまたは閲覧される(インプレッションがある)ごとに収入を得る仕組みになっています。たとえばグーグルアドセンスなどのオンライン広告は、広告に最適な掲載媒体を自動的に選んで掲載し、それがユーザーの目に触れることになります。
ただ、掲載媒体の運営者の中にはアドフラウドを発生させることで、不正に収入を得ようとするケースがあります。クリックボットと呼ばれるツールを使って自動的にクリック数を増やす、オートリフレッシュでブラウザを自動的に再読み込みすることで閲覧数を増やす、隠し広告という見えない状態の広告をページ内に配置することでユーザーが見ていないのに閲覧したことになるなど、アドフラウドの手口は実に巧妙です。アドフラウドの手口として代表的なものは以下の通りです。
・アド・デンシティ(過度な過密広告)
・アド・インジェクション(不正な広告挿入)
・クッキー・スタッフィング(不正なcookie履歴生成)
・オート・リフレッシュ(過度な自動更新)
・ヒドゥン・アド(隠し広告)
・フォールスリー・レプレゼンテッド(広告入札オークションのURL偽装)
・トラフィック・エクスチェンジ(自動リロードコンテンツの強制閲覧)
・マルウェア、アドウェア(ユーザーデバイスの不正プログラム感染)
・クリックボット(不正プログラムによる自動クリックやインプレッション)
本来、広告は関心がありそうな人に商品を知ってもらい、購買に結びつけることを目的としています。すぐには購買につながらない場合でも、ブランドイメージのアップや認知度の向上など、企業や店舗はポジティブな効果のために、広告費という対価を支払います。しかしアドフラウドによるボットなどのクリックやインプレッションは、広告費の無駄というネガティブな結果しか生みません。
またアドフラウドは、掲載媒体の運営者だけでなく、競合企業が他社の広告費を増加させコスト負担を増やすといった不正の可能性もはらんでいます。さらにアドフラウドで得られた不正収入が、犯罪組織や反社会組織などの収入源の一つになっていることも予想されています。
しかし、マーケティング担当者であっても全ての自社のオンライン広告の出稿先を把握することが難しい現状もあり、アドフラウドが起きていることに気づいていない例が多数存在するといわれています。
知っておくべきアドフラウド被害の特徴
日本におけるアドフラウド被害はスマートフォンやパソコンなど、全てのデバイス上のオンライン広告で報告されています。ただし、各デバイス向けオンライン広告全体におけるアドフラウドの発生頻度には以下のような違いがあります。
・スマートフォン(Android):3.6%
・スマートフォン(iPhone):1.6%
・タブレット:2.0%
・パソコン:15.4%
参考:2017年度日本のアドベリフィケーション調査レポートについて(アドベリフィケーション推進協議会)
このように、パソコン用のインターネットブラウザでは、他のデバイスよりかなり高い確率でアドフラウドが起きていることがわかります。その背景として、スマートフォンやタブレットPCよりもパソコンのブラウザ向けのほうがアドフラウドを起こすシステムを導入しやすいことなどが考えられます。
また、日本国内においては静止画と動画のオンライン広告を比較した場合、動画広告のほうがアドフラウドが起こる確率が低いことも、アドベリフィケーション推進協会のレポートで明らかにされています。
とはいえこうした状況はアドフラウドを仕掛ける不正利用者サイドと対策を行う広告主サイドのテクノロジーの発達により、今後も変化していくと考えられます。企業や店舗のマーケティング担当者はアドフラウドを取り巻く情報を常にアップデートすることが、広告の有効性のために不可欠といえるでしょう。
アドフラウド対策、初めの一歩
広告を実際に配信する広告配信事業者サイドも、アドフラウドがはびこる現状をもちろん重く受け止めています。広告配信事業では、不正クリックの防止や出稿先媒体のチェックのために以下のようなさまざまな対策が講じられています。
・パートナーメディアへのパトロール
・メディア審査の強化
・不正IPアドレスへの広告停止
・有害サイトへの広告停止
つまり広告主サイドでまず最初にできることは、広告配信事業者のアドフラウド対策をしっかり確認した上で広告配信の契約を交わすことです。アドフラウド対策の強化は広告業界全体の価値低下を防ぐためにも、今後ますます重要視されることが予想されます。
さらに、広告配信事業会社ができるアドフラウドの対策として、アドベリフィケーションのための第三者ツールを導入するという方法があります。アドベリフィケーションとは、オンライン広告が適切な媒体に表示され、ユーザーによりクリック・閲覧される状態にあるかといった、広告配信の管理をすることです。信頼できるアドベリフィケーション・ツールは、アドフラウドの発生を回避するだけでなく、アダルトサイトや倫理に反する内容の媒体に広告が掲載されることを防ぎ、ブランドイメージの低下を避けるといった役割も果たします。そうし効果的なツールを導入していることも、広告配信事業者を選ぶ要件として考えてみましょう。
執筆は2019年8月9日時点の情報を参照しています。
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