アグリツーリズムともいわれるグリーンツーリズムは、農村や山村、漁村で、自然や文化、人々との交流を楽しむ滞在型の観光のことです。
今回は、特に農業に着目した体験消費の一つである「農業観光」を中心に、企業や地方自治体の取り組み例、今後の動向など、知っておきたいポイントを紹介します。
体験消費のニーズ
訪日外国人旅行者が日本に来る目的といえば、「爆買い」と呼ばれる大量購入を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。「爆買い」は2015年の新語・流行語大賞にもなりましたが、翌年の2016年にはその勢いもやや減速することになります。2016年の訪日外国人旅行者数は2015年に比べて増加しましたが、一人当たりの旅行支出額(2016年1-3月期)は、平均161,746円で前年同期比で5.4%減少しています。2019年1-3月期では、1人当たり旅行支出は平均143,206円にまで減少しています。
旅行支出は減少しているものの、訪日外国人の数は年々伸びており、買い物だけでなく、温泉や花見、神社仏閣巡りなどの体験型のアクティビティに注目が集まっています。
参考:
【訪日外国人消費動向調査】平成28年1-3月期の調査結果(速報)(観光庁)
【訪日外国人消費動向調査】 2019年1-3月期の全国調査結果(1次速報)の概要(観光庁)
農業観光の可能性
農業観光をふくむ体験消費は、まだ大きな消費にはつながっていませんが、拡大余地のある体験消費を増やすことで、モノ消費を同時に促す効果が期待できます。
日本ではじめての世界農業遺産となった「能登の里山里海」は、能登の暮らしそのものが、観光資源になっている良い例だといえます。海から棚田がせりあがり、青い海や空と、水をたたえた田んぼの見事な景観が観光客を驚かせます。道の駅「千枚田ポケットパーク」では、棚田でとれたお米でつくられたお土産が人気です。コト消費がモノ消費へとつながっています。
このように、今まで生活の場であった田畑が観光資源になり、それを中心に地域経済そのものが動き出します。インターネットを通じて海外からは購入しにくい新鮮な野菜や魚、肉などの食材は農業観光に結びつきます。
グリーンツーリズムとは
農林水産省は1990年代から、「農山漁村でゆとりある休暇」としてグリーンツーリズムを提唱しはじめました。1995年には農家民宿の整備を目的として、農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律(農山漁村余暇法)が施行されました。農家との交流を促進するために、農家民宿の開業においては障壁となっていた規制を緩和する方向へ向かっています。
農山漁村地域で滞在し、自然、文化、人々との交流などを楽しむグリーンツーリズムには、日帰り型と宿泊・滞在型があります。
日帰り型でできるのは、農産物直売所での地元農産物の購入、ぶどう狩り、いちご狩り、芋掘りなどの観光農園の利用、農業公園への入園などです。宿泊・滞在型では、農家民宿、農家民泊、交流目的の公的施設に宿泊し、そこで郷土料理の賞味、食育、子どもの体験学習、農産物加工体験、農作業体験、農村生活体験などが行われています。
日帰り型、宿泊・滞在型どちらでもできる体験に、そば打ち、わら工芸、田植えや稲刈りがあります。グリーンツーリズムの概念を積極的に展開し、インバウンドも視野に入れて、農業観光として取り組むことで、観光需要を活性化させることが可能です。
農業観光の取り組み例
欧州で普及していた、農村に滞在しバカンスを過ごすという余暇の過ごし方を取り入れたのが日本のグリーンツーリズムです。英国ではルーラル・ツーリズム、フランスではツーリズムベール、イタリアではアグリツーリズモと呼ばれています。実際に企業や地方自治体の取り組みが行われているのか、具体例を紹介します。
企業の取り組み例
全国でホテルや旅館を展開する星野リゾートでは、日本発のアグリツーリズモをコンセプトにしたリゾートホテル「星野リゾート リゾナーレ那須」を2019年秋に開業予定です。「アグリツーリズモ」とは、イタリア語の造語で、その土地の農体験や自然体験、文化交流を楽しむ観光のかたちを意味し、日本のグリーンツーリズムとほぼ同義といえます。
参考:【リゾナーレ那須】日本初のアグリツーリズモリゾート「星野リゾート リゾナーレ那須」2019年秋に開業(株式会社星野リゾート)
自然豊かな環境に恵まれた栃木県那須で、四季の変化を肌で感じ、一年を通してさまざまなアクティビティが楽しめます。レストランでは、敷地内のガーデンで収穫された野菜やハーブを使ったイタリア料理を提供すると発表されており、ここでもコト消費とモノ消費が結びついています。
航空会社JALは「JAL Agriport株式会社」を千葉県成田市に設立しました。イチゴをはじめとする農産物の収穫体験や食事を楽しむ体験型農園施設を開園し、プライベートブランド商品の生産、加工、販売を通じて、コト消費とモノ消費の拡大を目指しています。
参考:JALと和郷、共同出資会社を設立して農業事業へ参入(日本航空株式会社)
地方自治体の取り組み例
長野県では「おいしい信州ふーどネット」をとおしてグリーンツーリズムの発信を積極的におこなっています。農家民宿では、その土地でとれた新鮮な食材を使った郷土料理を食べたり、収穫体験をしたりすることがが可能です。
農業観光をはじめる前に知っておきたいポイント
その土地に住んでいる人にとっては当たり前の風景や文化が、県外の人や訪日外国人にとっては新鮮に映ることを知るところからはじめる必要があるでしょう。たとえば、宮崎県のきんかん、鹿児島県のたんかん、高知県の小夏など、みずみずしくて美味しい柑橘果実は数量が少なく、都会にはほとんど出回らないものも多くあります。風景も同様です。地元の人にとっては毎日の見慣れた光景かもしれませんが、観光客にとっては美しく目に映る絶景になることもあるでしょう。
農泊に取り組む場合は、農林水産省が農山漁村振興交付金を実施していますので、交付金が得られるかどうかの検討をしてみましょう。
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執筆は2019年6月21日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash*