普段の業務の中で、「もっと早い段階で異変を把握できていればよかった」「遠隔から操作できれば業務時間の削減につながるのでは」と感じる瞬間があるかもしれません。今回は、これまでアナログで行なっていた作業や視覚化できていなかった情報をデータ化し、生産性と顧客満足度を上げる「IoT(モノのインターネット)」について解説します。
IoTとは
IoTとは「Internet of Things」の頭文字を取った用語で、「モノのインターネット」としても知られています。インターネットといえば、コンピューター同士で行なう印象がありますが、自宅にある家具から工場の産業機械までさまざまな「モノ」にセンサーを設置し、サーバーやクラウドサービスにつなぐことで、「モノ」の状況をモニターしたり、操作したりできるのが「IoT」です。さらには新たな市場価値を見出すことができるのも、IoTの特徴として挙げられます。
たとえば手持ちのスマートフォンから家のドアをロックできるデバイスや、空気の汚れを常時計測し必要に応じて電源がつく空気清浄機など、生活の周りにある活用例を耳にしたことがあるかもしれません。人手不足に悩む介護業界では、ベッドにセンサーをつけることで患者の離床状況を遠隔で常時把握できる、見守りサービスも存在しています。
このようにIoTには、現場にいなくても状況を確認し、操作でき、センサーを通して受信するデータを常時処理、分析できるというメリットがあります。
現状日本では、米国やドイツ、中国などIoTを積極的にビジネスモデルに取り入れている国に比べて、導入を検討している企業はその半数です。しかしながら、導入企業は年々増加傾向にあり、国内におけるIoTの市場規模は2017年の支出額が5兆8,160億円、2022年には11兆7,010億円にも昇ることが予想されています。
参考:
平成28年版 通信白書 国際的なIoTの進展状況(総務省)
国内IoT市場 テクノロジー別予測を発表出典タイトル(IDC Japan株式会社)
IoTを取り入れる上でのメリットとは
IoTの導入によって企業が受けるメリットと、顧客が受けるメリットを見ていきましょう。
企業のメリット
まずは実例をもとに、IoTを導入することで企業が得られるメリットを紹介します。
・コストやエネルギーの削減につながる
・作業をAIに任せることで、従業員の業務時間が削減できる
・遠隔で管理することができる
コストやエネルギーの削減につながる
センサーなどのデバイスを通してデータを収集し、分析することで、部品の破損や事故などを予測し、コスト削減につなげるのも、IoTの魅力の一つです。例として挙げられるのは、車両や軌道にセンサーを設置し、ビッグデータを収集、分析することで保守に務めているフランス国有鉄道(SNCF)です。SNCFでは軌道にセンサーを取り付けることで、事故が起きる可能性が高いタイミングで列車に減速の指示を送れるようになり、脱線事故防止に役立てています。
また、列車や鉄道設備に不具合が起きると修繕に時間とコストがかかってしまいますが、予兆保守を行なうことで、保守のスケジュールをコントロールし、コスト削減につなげようとしています。SNCFは照明器具やトイレの水タンクなど鉄道運行に関わるあらゆるモノやエリアにセンサーを取り付けることで、保守関連費用の10%から30%削減を目指しています。
作業をAIに任せることで、従業員の業務時間が大幅にカットできる
帝国データバンクが企業向けに行った働き方改革に関する調査によると、「従業員のモチベーション向上」と「人材の定着」に次いで、企業が働き改革を行う上で重視しているのは、「生産性向上」であることが分かりました。同調査では、働き改革に取り組んでいる企業のうち49.2%が、業務効率化のためにIT機器やシステムを導入しているとしています。
業務効率化の例として挙げられるのが、米大手金融機関JPモルガン・チェースが導入した、AI技術が搭載された分析プログラムです。このプログラムを使用すると、融資契約に係る書類をAI技術が数秒で読み込み、内容の解析も行うことから、弁護士や融資担当者が契約審査に充てる時間を、年間で36万時間以上カットすることが可能となりました。さらにAIに読み込んでもらうことで、人的ミスの削減にもつながっていると報告されています。
参考:
働き方改革に対する企業の意識調査(株式会社帝国データバンク)
北米におけるIoT、AIの活用事例(日本貿易復興機構)
遠隔で管理することができる
以前まではアナログで行なっていた作業をデジタル化し、現場に出向かう手間を省くことができるのも、IoTを導入する上でのメリットです。この点に挙げられる例として、バルセロナ市が行なっているスマートシティプログラムのスマートウォーターがあります。市内9カ所にある公園にセンサーを設置することで、気温や風、土壌状態などを測定し、散水システム、噴水、下水システムを自動化させ、遠隔から管理しています。必要に応じて散水されることから、同市は2014年に水資源の消費額を年間で25%削減できたと発表しています。
顧客のメリット
一方で、IoTの導入は、顧客にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。大きなメリットとしては、正確な情報がタイムラグなく届くという点です。事前に情報を把握できることから、無駄な時間が省けます。
例としては、近年国内でも実証実験が行なわれている、スマートバス停です。今まで時刻表に変更を加える度に張替え作業が行われていたところ、デジタルサイネージに移行することで、時刻表や告知文などを遠隔で変更できることがメリットの一つです。悪天候の際も運行状況を即座に届けることができ、乗客を長時間待たせずに済みます。このように顧客満足度向上につなげる利用法も考えられるでしょう。
IoTを取り入れる上での注意点
遠隔操作ができたり、データ分析により業務の生産性が向上したりと、IoTをビジネスに導入することは、従業員から顧客まで、広範囲にメリットをもたらします。しかし、新しい技術の導入には事前に注意しておきたい点もあります。以下の三つの注意点を中心に説明します。
・セキュリティー
・人材
・コスト
セキュリティー
業務効率化やコスト削減につながるという利便性は魅力的であるものの、経営者が心配になるのは安全面の確保です。インターネットに接続されたIoT機器は、ネットワークにつながっていることで情報交換が可能ですが、一方でウィルスに感染してしまった場合、関連システムにも被害が及んでしまう可能性が考えられます。また、IoT機器自体にはパソコンやスマートフォンのようにセキュリティーソフトが備わっていないため、未然に攻撃を防ぐことも難しいとされています。実際に2016年には、IoT機器をターゲットとしたサイバー攻撃が行われた実例も存在します。情報漏えいのリスクを少しでも軽減するためには、デフォルトで設定されているパスワードを必ず変更すること、最新のファームウェアを導入することなどが推奨されています。
参考:IoTマルウェア「Mirai」の標的が企業にシフト、攻撃の威力さらに増大の恐れ(2019年3月19日、ITmedia エンタープライズ)
人材
IoTを導入する際、維持や管理を行なう人材が必要となってくるものの、そもそも社内にエンジニアがいない企業は導入に踏みとどまることがあります。実際に中小企業ではシステムエンジニアがいないことも多く、意志決定者にITに詳しい人がいない場合は、IoT導入メリットの理解に至らないケースも少なくないようです。
コスト
いざIoT機器を導入するとなると、センサーや、データ処理と分析を行なうソフトウェア、通信費用などコストがかさんでしまうことは、経営者が導入に躊躇してしまう大きな要素でしょう。ところが実際に導入済みの企業を対象に行なったアンケートを見てみると、IoT機器を導入したことで増加した年間設備投資額に対して、「増加していない」と答える企業が30%と最も多く、次いで「10%未満」と答える企業が29.4%となっています。
理由として見られるのは、そもそもの投資額が低いという点です。同アンケートで、昨年度売上高比でのIoTサービスへの支出を調査したところ、3%未満であると答えた企業が30%と多く、次に3%から5%と答えた企業が21.3%でした。現状、大きな額を投資するよりも、できる範囲内で少しずつ投資していく企業が多いことが考えられます。
参考:ICTの日本国内における経済貢献および日本と諸外国のIoTへの取組状況に関する国際企業アンケート 集計結果(総務省)
東京都では、2018年度よりIoTの活用や、関連製品・サービスの開発をする企業を支援する、「中小企業のIoT化支援事業」が始まりました。従業員の業務削減から、データの「見える化」によるコスト削減、そして顧客にいち早く正確な情報を届けることを可能とするIoT機器の導入をぜひこの機会に検討してみてはいかがでしょうか。
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執筆は2019年6月24日時点の情報を参照しています。
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