ウェブマーケティングの分野で、サイトやアプリの改善手法として知られる「ABテスト」。今回は、ABテストの意味にあわせて、効果の出るABテストの進め方、メリットやデメリットを紹介します。
ABテストとは
ABテストとは、ウェブサイトやアプリケーションなどで用いられる改善テストの一つです。ある一箇所のポイントを変更し、CVR(Conversion Rate、コンバージョン率)に与える影響の仮説検証を行なう施策のことを指します。
ABテストはウェブマーケティングにおける、CRO(Conversion Rate Optimization、コンバージョン率最適化)手法に含まれます。CROとは、ウェブサイトやアプリケーションに来訪したユーザーのコンバージョン率を上げる施策全般を指すウェブマーケティング用語です。
ランディングページのクリエイティブ文言を改善する、流入数が多いページからコンバージョンまでの導線を改善する、フォームの機能を改善する、コンバージョンボタンのデザインを改善する……など、さまざまなタッチポイントがABテストの対象となり得ます。
また、もともとはウェブサイトの改善テストに対して用いられていたABテストという言葉ですが、最近ではウェブサイトだけに限らず、ある特定の箇所のテストパターンを用意して、改善のトリガーを見つけていくこと全般を指すことも多いです。
ABテストは何のために行なうのか
ABテストは、ウェブサイトやアプリケーションのコンバージョン(売上向上や新規ユーザーの獲得など)を向上させるために、どんなサイト設計が効果的なのか、仮説を明確にするために実施されます。
ウェブサイトやアプリケーションは、改善可能な箇所が多数あるため、実際のところ「何をどのように変更することがコンバージョンに影響するのかわかりづらい」こともよくあります。なんとなく良いと思ったからという理由で改善すれば、実はもっと簡単に成果をあげられる箇所があったことに気づかない……ということも少なくありません。
ABテストは、無数におよぶウェブサイトやアプリケーションの改善を、コンパクトに、確実に成果の出るサービス設計に近づけるために効果を発揮します。
ABテストのテスト項目
ABテストでは、主に以下の要素をテストします。
・メインコピーの訴求内容
・ファーストビュー画像
・テキストコンテンツ
・アクションボタン(デザイン、文言)
・コンバージョンボタン(デザイン、文言)
・細部のアイコンやデザインなど
ただし、上記の要素がウェブサイトやアプリケーションのコンバージョン向上に最も寄与すると限りません。次章で説明する「ABテストの進め方」の中の「仮説を設定する」ことがポイントで、仮説次第では上記に含まれない要素のABテストを行なうケースもあります。
ABテストの進め方
ABテストを適切に進めていくことは、意外と簡単ではありません。しかし、ポイントを抑えれば、適切な検証を行なうことができますので、一つひとつ要点を理解していきましょう。
1, テスト対象の見極め
ABテストで何よりも難しいのが、テスト対象の見極めです。手当たり次第にテストすることも簡単にできますが、多くの時間と労力を使うことになります。改善ポイントをどう見極めるかが重要になります。
見極めるときに大切なのが、「大きな視点から見つめる」ことです。つい細かな改善点に目が行きがちですが、大きな部分の改善に強い改善のトリガーが隠されていることは少なくありません。
まずは大きな視点(サイトの全体設計の見直しなど)に目を向け、予算や技術的な難易度を鑑みて、徐々にブレイクダウンさせていきましょう。
2, 仮説を設定する
仮説の設定は、課題を丁寧に分解していき、根拠となるデータ(定量・定性)と照らし合わせながら固めていきます。「仮説設定に必要なデータがない」と不安な人もいるかもしれませんが、データがなくとも「課題の主要因は何か」という視点からも設定することができます。
そのうえで、定量データが不足していると感じている人は、ユーザーへのアンケート調査などを事前に実施するのもよいでしょう。仮説の設定はもっとも重要ですが、正解はありませんので、ABテストの予算やリスクと照らし合わせ、見切りをつけて先に進むのもポイントです。
3, 作業工数の見積もり
仮説を設定したら、ABテストを行なう場合のテストケース作成工数と検証期間・分析期間のおおよその見積もりを出します。特にテストケース作成は、仮説次第によっては、思った以上に工数がかかる場合があります。
「もっと早く、初回のABテストを行ないたい」という場合は、同じ確度で有力であり、かつ作業工数の少ない仮説検証にシフトする判断もここで必要となります。
4, テストケースの作成
作業工数の見積もりの上、ABテストの方針が決まったら、実際にテストケースの作成に進みましょう。たとえば、コンバージョンボタンのデザインパターンを変えてABテストを行なう場合であれば、そのデザイン制作にあたるフェーズです。
注意点は、正しく事前に設定した仮説に基づいたテストパターンになっているか確認しながら作成することです。仮説の理解が浅いと、テストケースで仮説検証につながらないものを作成してしまいがちなので、気をつけてください。
5, 検証体制の構築
ABテストの結果を正しく分析するために、必要なモニタリング項目を洗いだしておきましょう。必要項目をどのように計測し、どれくらいの頻度で収集するかを決めます。
ただし、ABテストの前では、厳密な検証体制の構築は必要ありません。なぜならば、多くの場合で実施してみて「このデータは不要だ」「このデータは必要だ」と取得項目が変化するためです。ABテストの後に、必要な項目を絞っていけばよいので、ここでは手広く収集できる体制をつくっておきましょう。
6, ABテスト開始
ようやく実際にABテストを行ないます。ABテストは一定期間でパターンを手動で切り替える方法もありますが、ツールを使って、無作為にパターンを切り分ける方法もあります。
便利なABテストツールを使用したほうが、手動の切り替えをしなくて済むだけでなく、その他の便利機能も使えます。代表的なABテストツールに「Google Optimize」や「Optimizely」「Kaizen Platform」「Visual Website Optimizer」があります。
7, 分析・レポーティング
ABテストの期間が終了したら、結果の分析を行ないます。収集したデータを基に、仮説が正しかったのか、外れていたとしたらその要因は何かをデータから読み解き、新しい仮説を立て、次のABテストに進みます。
分析やレポーティングには、時間がかかるケースが多いので、余裕をもってじっくり分析できる時間を用意しておくことをおすすめします。
ABテストのメリット・デメリット
ABテストはメジャーな改善手法ですが、メリットだけでは決してありません。ABテストのメリット・デメリットを正しく理解したうえで、実施するようにしましょう。
ABテストのメリット
ABテストのメリットには、以下があげられます。
・大規模な予算をかけずに実行できる
・作業工数を少なく、小さな労力で改善サイクルをまわせる
・定量的に仮説の効果を計ることができる
・同時に複数のパターンでテストを行なうことができる
・効果が出なかった場合、すぐに元の状態に戻すことができる
基本的には、ABテストはサイト全体のリニューアルなどとは違い、少ないコストで実行することができ、問題が生じた場合でもすぐに元に戻すことができる点がメリットといえます。また、適切な効果測定の体制を作ることで、仮説検証の効果を定量的なデータとして得ることができる点もメリットです。
ABテストのデメリット
一方でABテストのデメリットには、以下があげられます。
・仮説と効果測定を正しく行なわないと、何が効果的だったかわからなくなる
・一定以上のデータが集まらないと仮説の可否を判断できない
・季節要因の影響を受けて、正しい検証に時間がかかる
・ある箇所の改善がある箇所に悪影響を与える場合がある
デメリットは、ABテストに限られた内容ではなく、多くの改善施策でいわれていることと同じです。特に、気をつけるべき点は、正しい仮説検証が行なえなくなるリスクを避けることです。
ABテストの検証結果に確信をもつためには、仮説が明確なものであり、その検証方法が適切で、テストデータの量や季節要因の認識が正しくできている必要があります。広い視野をもって、細かいテストデータを分析するようにしましょう。
ABテストは比較的歴史のあるウェブマーケティングの改善手法です。コンパクトにコンバージョン向上への仮説検証が行なえることから、ウェブサイト・アプリケーションの改善施策として支持されています。
ただし、「改善点の見極め」「明確な仮説設定」「正しい効果検証と分析」ができないと、生じた結果の原因が明瞭に判断できなくなってしまいます。実践する際は、ABテストが無駄にならないように丁寧に進めていくようにしましょう。
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執筆は2019年5月27日時点の情報を参照しています。
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