自分の店を持ち、オーナーシェフになる。それはこれまで積み重ねてきた努力の結晶であり、新たな門出でもある。「Tokyo Top Chef〜成功のレシピ〜」は、ミシュランの星を獲得しているレストランや、それぞれの分野で圧倒的な知名度を誇る飲食店のオーナーシェフを取り上げ、独立に至るまでどう道を切り拓いてきたかに迫るシリーズだ。
第2弾では、「Alchimiste(アルシミスト)」のオーナーシェフ、山本健一(やまもと・けんいち)さんに話を聞く。アルシミストは2011年に白金台にオープンし、「ミシュランガイド東京・横浜・湘南2013」にて一つ星を獲得して以降、12年連続で同評価を獲得し続けているフランス料理店だ。20代に渡仏し、好奇心の赴くままにどこでも迷わず飛び込んだ修業時代から独立に至るまでの道のり、お店を続けていくなかでの変化について教えてもらった。
山本健一(やまもと・けんいち) 1977年1月15日生まれ、大阪府出身。京都のフレンチで修業後、2001年に渡仏。リヨン、アルザス、バスク、ブルターニュなどフランスの各地方を周り、修業を積む。30年以上ミシュラン三つ星を獲得してきた「タイユヴァン」のシェフを務めたミッシェル・デル・ブルゴ氏に師事。ブルゴ氏がはじめた店「オランジュリー」(パリ)のオープニングスタッフとして働く。その後、「ル・シャトーブリアン」をはじめパリの名店でさらに経験を積み、2008年12月に帰国。2011年にアルシミストをオープン。2021年に現店舗に移転した。 |
業種 | 飲食 |
業態 | フランス料理店 |
利用しているサービス | Square リーダー、Square ターミナル、Square POSレジ、Square 請求書、Square データ |
幼い頃からあった、食への執着心
子どもの頃から料理が好きだった。親が共働きで、幼い頃から当たり前のように台所の手伝いをしていたという。
「自分らしいと思うエピソードがあります」と山本さんは話し出す。「父親があるとき仕事でロシアに行ったんです。それでキャビアを買って帰ってきたんですよ。当時のキャビアって、ガラスの器にシャンパンでいうアグラフのような鉄の留め金がついていて。小学校の低学年だったので、開け方がわからなかったんです。でも食べたいので、とにかく必死になって開けました。そういうことにすごい必死になるのが僕なんです」
食への好奇心は人一倍。興味を持ったことは、とことん貫き通す。ただ思い返すと、食への愛着心が高まったのは母親が仕事の合間に作るバラエティ豊かな手料理のおかげだったようにも感じるそうだ。食に関わり、食を楽しむ場面が日常的に多かったことから、料理の専門学校に進んだのもいわば自然なことだった。志したのは、フランス料理。あえて母親が作らないジャンルにした。
師匠に憧れて、フランス行きを決意
最初の修業先は、京都にあるフランス料理店だった。当時、17歳。いわれたことをただこなしていく毎日だったが、少しでも周りを手伝える時間を増やそうと、誰よりも早く店に入り、自分の仕込みを先に終わらせていたという。誰かに指示されずとも考えて動く。そんなタイプだった。このレストランは、そんな山本さんの肌に合っていたそうだ。
オーナーシェフは日本人でありながらもフランスに8年間滞在し、料理人としての基礎はすべてフランスで養ったという珍しいタイプの人で、仕事に求めるものにはフランスで培った経験が反映されていた。たとえば上下関係にこだわるよりも、実力を重視する。出る杭は打たれるというよりも、出過ぎてなんぼだった。山本さんはそんな姿勢を持つ師匠をとにかく慕い、次第にフランスで修業することを考えはじめた。
修業をはじめて5年が経ったタイミングで、フランスに旅立った。2001年のことだった。
まず目指したのは、フランスのリヨンだ。滞在中はできる限り色々な地方を巡り、それぞれの特徴を吸収しようと決めていた。到着するやいなや、いろんなレストランを食べてまわり働かせてほしいと直接頼み込んだり、修業したいレストランに雇って欲しいと手紙を書いたりした。100通出しても返ってくるのは数通程度だったそうだが、おおよそ2カ月で無事最初の修業先が決まり、ここから山本さんは多種多様な経験を積んでいくこととなる。
何通も手紙を書いて、修業先を見つけた
リヨンにはじまりバスク、アルザス、ブルターニュなどフランス国境沿いにある街や村を転々とし、そのたびに手紙を書いて、修業先を見つけた。吸収できるものはすべて吸収したいという思いで海を渡ったこともあり、たとえ休日でも年に1回しかしない珍しい仕込みがあると聞きつければ、迷わず参加した。
フランス修業の後半戦では、当初滞在する予定のなかったパリに向かった。30年以上ミシュラン三つ星を守り続けてきたパリの老舗レストラン「タイユヴァン」でキャリアを積んだシェフに誘われ、新店舗のオープニングスタッフとして働くためだ。それからはトップクラスのレストラン(Le Chateaubriand、ル・シャトーブリアン)やパティスリー(Pâtisserie Pain de Sucre、パティスリ・パン・ドゥ・スクル)で働くチャンスが舞い込み、どれも波に乗っかるようにして挑戦した。歩みを止めず、どんなチャンスにも果敢に飛び込んでいく。話を聞いていると、そんな姿勢がずっと一貫してあるように思える。
▲リヨンにて、レストラン「ニコラ・ル・ベック」で働いていたときの様子。左上から二番目の写真の左側に映るのが、山本さん
2011年にアルシミストをオープン
8年の修業を経て、帰国した。少し立ち止まりながらも、「人に使ってもらえるような性格ではなかったので、自分でやらないとダメだろうなと思っていました」と話す。大阪で生まれ育った山本さんは、そのときはじめて東京に住むことになり、自分の足で街を巡り、港区の白金で独立開業することに決めた。
2011年にオープンしたのは、15坪のこぢんまりとした店舗だった。「ガストロノミーを気軽に楽しんでもらえるお店が作りたくて、肩肘張らずに食べてもらえるようオープンキッチンにしたり、ポップな感じを出すために紫を差し色にしたりしました。ガストロノミーとビストロの中間として、ビストロノミーという言葉を日本で聞くようになったのも、ちょうどオープンした頃のことでした」
当時フランスでは、一流の高級レストランで修業したシェフたちが次々と独立しはじめ、アットホームなスペースであっと驚くような料理を出しては話題を呼んでいた。山本さんはそんな場所を日本で作ろうとしていたのだ。
「ミシュランガイド東京・横浜・湘南2013」にて、はじめてのミシュラン一つ星を獲得。星に対してはどんな思いがあったのだろう。
「星を獲得するために何かをしてきたという意識はありませんが、とらないと商売を続けられないなという意識はありました。なのである程度、どういうお店がミシュランをとってるのかという傾向は把握していました。カトラリーはこういうのがいい、とかその程度ですけどね。あとはただ一生懸命、料理をつくってました」
アルシミストではその後、来る年も来る年も一つ星を獲得し続け、2024年1月時点では12年間連続で同評価を欠かさず受けている。
決済端末とPOSレジがスタッフ1人分の働きを担う
オープン当初はコースを7,000円台で提供しており、現金でも払えなくはない価格帯だった。ただ、フランスでは当たり前のようにカード決済を目にしていたことから、自店舗でもためらうことなくその選択肢を設けた。
決済端末を決めるうえで重視していたのは、テーブル会計ができる持ち運べるタイプであること。フランスでは当時からレストランに限らず、客単価が1,000円ほどのカフェでもテーブル会計が当たり前だったそうだ。
Squareに決めたきっかけは、とあるカフェで見かけて、そのシンプルな見た目に惹かれたからだという。
もう一点重要視し、結果的に今でも助かっているというのは、売り上げの入金サイクルだ。アルシミストのソムリエで、経理も担当している山本麻希子さんはこう話す。
「基本的に仕入れの支払いは月末締め翌月末なんですけど、15日支払いのもの、10日支払いのものもあれば、家賃は20日支払いと、ものによっては支払日が違ったりもするんです。なので、売り上げが週に1回(※)入ってくるのは本当に助かりますね」
※三井住友銀行・みずほ銀行の金融機関口座をご登録の場合、売り上げは翌営業日に振り込まれます。そのほかの金融機関口座を登録している場合は、毎週水曜日締め、同週の金曜日に合算で振り込まれます。
▲Square ターミナルにはPOSレジが搭載されている。
導入してみて気に入ったのは、操作が簡単なところ。2011年のオープンから2021年の移転までは人手が少なかったこともあって、無駄な作業は減らして、やることをできるだけシンプルに削ぎ落としたいという気持ちがとにかく強かった。Squareの端末は、この思いを叶えてくれた。「当時は2人でお店を回すことも多かったので、この決済端末をスタッフ1人分と考えていました」(麻希子さん)。アルシミストでは注文を受ける際も会計を受ける際も、Square ターミナルをテーブルまで持っていき、どちらの作業も済ませている。
お客さまの9割がキャッシュレス決済を希望。「会計が遅い」はSquareで回避
現店舗は2階建てで、現金決済は1階にあるレジカウンターでしか行えない。2階の食事スペースからレジカウンターに向かう時間も考慮すると、決済スピードは現金よりもクレジットカード決済のほうが圧倒的に速い。「現金決済と比べると10分の1くらいのスピードじゃないですかね。逆に、たとえ高額のお支払いでも決済が一瞬なので、少しもったいぶらないと、と思ったりしたこともありました」(麻希子さん)
ちなみに今は9割と大半のお客さまがキャッシュレス決済を希望する。
「現金決済と比べると10分の1くらいのスピードじゃないですかね。逆に、たとえ高額のお支払いでも決済が一瞬なので、少しもったいぶらないと、と思ったりしたこともありました」
▲ソムリエの山本麻希子さん。開業当初からチームの一員で、山本健一シェフの妻でもある。
ただ、スムーズな食体験を提供するうえで速いに越したことはなさそうだ。
「料理がまずかったら、お客さんはもう来ないだけなんです。お客さまを怒らせるのは、会計で何かミスがあったり、お待たせしたりしたときです。会計が遅いのは本当に最悪だと思います。口コミなどで怒らせてしまうのは、もうサービスでしかないんです」(山本シェフ)
対面決済のほかにも、「友人に食事をプレゼントしたい」という希望をメールや電話などで受けることが稀にあるそうで、その際にはメールで送れるSquare 請求書も利用している。メール内にあるリンクからオンラインでクレジットカード決済ができる機能だ。
▲メールで受け取ったSquare 請求書にあるリンク先を開くと、表示されるページ
以前利用していた決済サービスはあまり知られていなかったこともあり、「このサイトは本当に大丈夫なのかというお問い合わせを結構もらっていました」と麻希子さん。それ以前は店舗の銀行口座情報を送り、振り込みを促したこともあったそうだ。「Square 請求書を使いはじめてからはちゃんとした企業が窓口になっていることがわかるので、僕たちが勝手に請求している感じがなくなり、信用性にもつながっていると思います」(山本シェフ)
「料理がまずかったら、お客さんはもう来ないだけなんです。お客さまを怒らせるのは、会計で何かミスがあったり、お待たせしたりしたときです。会計が遅いのは本当に最悪だと思います。口コミなどで怒らせてしまうのは、もうサービスでしかないんです」
移転により生まれた新たなチャレンジと可能性
2年前(2021年)には大きな転機があった。オープンから10周年を迎え、前と比べて4倍の広さ(60坪)を持つ2階建ての物件に移転した。
コロナ禍の真っ只中で、「思い切ったことをしないとちょっと気持ちが潰れそうだったんです」と麻希子さんは話す。
広さもそうだが、以前は山本シェフを含め2人で厨房をまわしていたのが、今では5人体制に変わった。ずいぶんと大きな変化で、慣れるのには多少なりとも苦労があったと打ち明ける。
ただ広い店舗に移ったことで、できることも増えた。大きなところでいうと、ストックや調理のスペースをふんだんにとれるようになり、一から作れるものが増えたそうだ。
マイナス60度の冷凍庫を置くスペースができたことで、キャビアを一から作れるようになった。自分たちで作れば、よりいいものを提供できる。たとえばキャビアに関しては保存料を使わないという選択も、塩分濃度を減らし、おいしい塩を厳選して適量使うという選択もできる。
メンバーが増えたことで、できることの幅も広がった。麻希子さんの実家である茨城県に畑を持ち、野菜を育てはじめたのも最近の話だ。直近でいうと菊芋を育てたと山本シェフはうれしそうに話す。チーム全員で畑に出かけ、自分たちの手で草刈りをし、芋を掘る。
材料がどこから来て、誰の手に渡り、どのように処理されているかなどは当初から特に気を配っていた部分だったが、このこだわりをさらに極められるようになったそうだ。
オープンから12年目に入り、チームメンバーも増え、料理を提供するうえで意識するところも変わってきたと麻希子さんは話す。
「昔は『俺の料理を食べてください』というところがありました。今は、お一人お一人がどう感じているかというところをすごく考えるようになったと思います。たとえば健康の面、料理の速度、食事の量。 前菜は楽しくだけど、お肉、お魚はとてもシンプルに、純粋においしいって思えるものを出そうとかですね。昔は100人いれば、 嫌いな人がいてもいいと思っていたところもありましたが、今はみんながどこかいいところを一つ見つけて帰れたらとやさしくなりました」
成功のレシピは、動き続けること
京都からフランス、フランスから東京、そして独立に移転。キャリアを通して、さまざまな環境に飛び込み、野心的に挑まれてきた山本シェフ。フレンチの道を進むと決めてから一点もぶれず、独立をしてからはずっとミシュランに評価され続けてきた。何かを継続するうえで山本シェフは、何が何でも動き続けることがとにかく大切だという。
「辞めないことが一番です。心が折れるってよくいうじゃないですか。でも折れてるのは、所詮、心なんです。心折れへんかったらなんとかなるんです。たとえばお金がなくなったら、人に頭を下げて、借りにいけばいいんです。できることっていくらでもあるんですけど、心が折れるとやめようかなって思っちゃうんです。でもやめないこと。これが一番大切だと僕は思っています」
日々料理をつくるうえでは、愛情も欠かせない要素だという。
「料理ってちょっとしたことで崩れちゃうんですよ。1皿仕上げるうちの一つのピースを誰かが忘れたとして、やり直すといってももう遅いんです。たとえばそのお魚は、もうその頃にはベストな状態じゃなくなっています。なので小さな奇跡を起こしていかないと、1皿ってなかなか生まれないんです。それがおいしいと思ってもらえたら、もう大奇跡なので。そのためにも愛情を込めて作らないといけないということはスタッフにもよく話しています」
たとえ些細なことでも、平等に愛情を注いで取り組んでいくことが、ゆくゆくは大きな成果につながっていくのかもしれない。
「基本的に仕入れの支払いは月末締め翌月末なんですけど、15日支払いのもの、10日支払いのものもあれば、家賃は20日支払いとものによっては支払日が違ったりもするんです。なので、売り上げが週に1回入ってくるのは本当に助かりますね」ーアルシミスト ソムリエ 山本麻希子さま
高級フランス料理店で役に立ったSquareの特徴
POSレジも決済端末も操作が簡単
アルシミストの最初の店舗では、山本健一シェフとソムリエの麻希子さんの2人でお店をまわすことも少なくなくありませんでした。決済端末とPOSレジを「スタッフひとり分」とカウントできるほど、スピーディーなお会計が2人の負担軽減に貢献していたそうです。
入金サイクルが早く、売り上げがすぐに手元に入る
アルシミストでは、お客さまのうち9割がキャッシュレス決済を希望するそうです。キャッシュレス決済の割合が多いと、手元資金が少なくなってしまうことが心配な点ですが、Squareだと売り上げが週に1回(※)振り込まれるので、仕入れ先の支払日がばらばらでも、そのときどきで滞りなく支払いを済ませることができています。
※三井住友銀行・みずほ銀行の金融機関口座をご登録の場合、売り上げは翌営業日に振り込まれます。そのほかの金融機関口座を登録している場合は、毎週水曜日締め、同週の金曜日に合算で振り込まれます。
オンライン決済をプレゼントに活用できる
アルシミストでは、お客さまから「友人へのギフトとして食事をプレゼントしたい」という希望を受けることが稀にあるそうです。その際には、メールで送れて、オンラインでクレジットカード決済ができるSquare 請求書を活用して、お食事の費用を請求しています。Squareを介して決済を行うため、手間も少なく、お客さまは安心して支払い済ませているそうです。
Squareのブログでは、起業したい、自分のビジネスをさらに発展させたい、と考える人に向けて情報を発信しています。お届けするのは集客に使えるアイデア、資金運用や税金の知識、最新のキャッシュレス事情など。また、Square加盟店の取材記事では、日々経営に向き合う人たちの試行錯誤の様子や、乗り越えてきた壁を垣間見ることができます。Squareブログ編集チームでは、記事を通してビジネスの立ち上げから日々の運営、成長をサポートします。
執筆は2024年2月22日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。