自分の店を持ち、オーナーシェフになる。それはこれまで積み重ねてきた努力の結晶であり、新たな門出でもある。「Tokyo Top Chef〜成功のレシピ〜」 は、ミシュランの星を獲得しているレストランや、それぞれの分野で圧倒的な知名度を誇る飲食店のオーナーシェフを取り上げ、独立に至るまでどう道を切り拓いてきたかに迫るシリーズだ。
第3弾では、東京・神楽坂にある「エスタシオン」のオーナーシェフ、野堀貴則(のほり・たかのり)さんに話を聞く。エスタシオンは、7年連続でミシュランガイド東京のビブグルマン(※)を獲得し、ほぼ毎日予約でいっぱいのスペイン料理店だ。メニューを彩るのは、ほかではなかなか味わえないスペインの郷土料理。一方で、スペイン料理と聞いて多くの日本人がイメージする「パエリア」や「アヒージョ」などの定番料理は基本的に出さない。それでも予約が絶えない店舗をどう築いてきたのだろうか。
※ミシュランガイドの「ビブグルマン」のセレクションには、「価格以上の満足感が得られる料理」と評価された店が紹介されている。
野堀貴則(のほり・たかのり) 三重県出身。銀座の「エル・セルド」(現在閉店)の立ち上げメンバーになったことをきっかけに、スペイン料理の道を歩み始める。神楽坂の人気スペイン料理店「エル・プルポ」や「エル・ブエイ」の立ち上げに関わり、コンセプトの考案にも携わる。2015年にスペインの郷土料理とロゼワインを楽しめる「Estación(エスタシオン)」をオープン。2006年から年に1度スペインの各地方を訪れ、郷土料理を学ぶ旅を続けている。特に好きなのは、ガリシア州。 |
業種 | 飲食 |
業態 | スペイン料理店 |
利用しているSquareのサービス | Square ターミナル |
イタリアンからスペイン料理に転換
親が共働きだったことから、自分で食べるものは自分で作るということが幼い頃から身についていた野堀さん。アルバイトができる年齢になると、自然と飲食店の求人を探し、キッチンスタッフとして働き出した。
最初に興味を持った料理は、イタリアン。ソースなどが重要な役割を果たす料理よりも、素材の良さを生かす料理が肌によく馴染んだ。イタリアンを長く続けていこう。そんな思いで修業をはじめたものの、3年勤めた飲食店が閉店することになり、せっかくならいろんな料理を試してみようという気持ちになった。
飲食店を転々とするなかで興味を持ったのが、スペイン料理だ。
「キッチンとホールがしっかり分かれているようなところよりも、バルみたいにオープンキッチンで、お客さまとの距離が近いほうがおもしろいなと思いました」
さらにスペイン料理は、今でもイタリア料理店やフランス料理店と比べると全国的に店舗数が少ないが、当時はもっと少なかったと野堀さんは振り返る。「あんまりやっている人もいないし、おもしろそうだなというのはありましたね」
▲オーナーシェフの野堀さん。
スペインの郷土料理に惚れ込んだ
ときは2005年。東京ではバルの人気がじわじわと高まり、スペイン料理が広まりはじめていたときだった。そんな時代の渦のなかで、野堀さんはいきなり立ち上げメンバーとして、銀座のスペイン料理店「エル・セルド」(現在閉店)に入ることになる。スペイン料理の知識はほとんどなく、レシピ本などから学ぶ日々。1年ほどすると、それだけでは足りないと現地に足を運んだ。以降、コロナ禍で渡航が難しくなるまでは年に1回現地に足を運び、毎回新しい地域を訪れては、食べたことのない料理を口にし、知識を深めていった。なかでも惹かれたのは、スペインの豊かな郷土料理だ。
「歴史的背景や文化の違いが色濃く出ている国なので、地方に行くといろんな料理があるんですよね。南はアフリカの影響を受けてスパイスを使っていたり、北はフランスに近いエリアなので食文化が少し洗練されていたりします」
特に好きなのは、ポルトガルの真上、スペインの北西にあるガリシア州だという。
「1番行っているエリアです。海が近いので、魚介がすごくおいしいのが特徴的ですね。あとワインもすごくおいしいんです」
スペイン料理にどんどんのめり込んでいった野堀さんは、「エル・セルド」と同じ経営者が新たにはじめた「エル・プルポ」(神楽坂)、「エル・ブエイ」(神楽坂)でも料理人として立ち上げに参加し、社長とともにコンセプトづくりをした。どちらも当時、スペインバルブームを牽引していた店で、その盛り上がりの中心にいたのが野堀さんだ。
「何でも任せてくれる人だったので、だいぶ勉強になりましたね。社長は現場に出る人ではなかったので、現場のことは全部僕が担当していました」
重要な役割を担いつつも、年に1度は欠かさずスペインに足を運び、「味の答え合わせをしていました」と野堀さん。さらに新たな郷土料理と出合うと、日本のお客さまにも紹介したいという思いで、メニューにくわえたりしていたそうだ。
▲野堀さんが長年愛してやまないスペイン料理、「エンパナーダ」
アヒージョのないスペイン料理店「エスタシオン」
約13年間の修業期間を経て、「ゆくゆくは」と思っていた独立の道を本格的に歩み出すことにした野堀さん。2015年のこと、34歳でのチャレンジだった。
店名には、スペインの郷土料理を日本の四季折々の食材をたっぷり使って作りたいという思いから、「Estación(読み:エスタシオン スペイン語で「季節」を意味する)」と付けた。
スペイン料理といえば、オリーブオイルとニンニクで食材を煮込むアヒージョを瞬時に思い浮かべることも多いが、野堀さんは「アヒージョは、基本的にやりません」ときっぱり宣言する。
理由を聞いてみた。
「みんなが知らないスペイン料理をもっと広めていきたいからです。お客さまがイメージするパエリアやアヒージョだけをやっていても、つまらないじゃないですか。 もっといろんな料理がたくさんあるので。そういう思いもあって、一般の人が知ってるようなスペイン料理はほぼ出していないです」
それでもスペインの定番料理を期待して、「アヒージョ、ないんですか」と聞くお客さまは少なくないそうだ。ただ、アヒージョを出したことはない。それでも毎日のように予約で席が埋まるのが、このお店のすごいところである。過去には7年連続でミシュランガイドのビブグルマンも獲得してきた。
「『おいしいな。これもスペイン料理なんだ』と思ってもらえたらいいなと思います。想像を超える料理を出せれば、感動に変わるじゃないですか。そこを目指しています」
▲お気に入りの陶芸作家の器を集め、料理に使う。独特な形のものも多く、カウンター沿いに積み上げられた食器たちを眺めるのも楽しい。
手元資金が足りないときに助けられたのは、最短翌営業日の入金サイクル
飲食店をはじめるとなると、必ず準備しなければいけないのが会計の手段。たくさんのサービスのなかから野堀さんがオープンに向けて導入したのは、Squareの決済端末だ。大きな理由は、入金サイクルにあった。特にエスタシオンではオープン時、融資の入金タイミングが遅く、「カツカツで、むしろ(資金が)足りないくらいでした」と振り返る。
「普通、融資を受けると審査がおりたらお金が入ると思うんですけど、僕が使った制度はオープンしてからじゃないと融資がおりなかったんです。なので、10月10日がオープンで、融資がおりたのは10月末でした。工事もその頃には終わっていたので、その支払いもしないといけなくて。ちょっと待ってもらっちゃいましたけど。そういうなかで、売り上げがすぐに入ってきたのは助かった部分でした」
Squareの決済端末で受け付けた売り上げは、最短翌営業日に振り込まれる。なかには、売り上げが手元に渡るまで数日あるいは数週間かかるサービスもあるが、そういった心配をしなくて済むことが導入の大きな決め手になった。
こぢんまりとした店舗に合わせて、お会計はシンプルに
9坪の小規模な物件を選んだこともあり、お会計はできるだけシンプルにしてスペースを取りたくないという希望もSquareの導入につながった。
「うちにはレジがないんです」と野堀さん。「これ(Squareの決済端末)と、現金は小さな金庫に入れている感じです。場所を取らないところは、(導入を決めるうえで)結構大きかったです」最初から、レジは持たない形でやってきたそうだ。
オープン当初はアラカルトとして提供しているメニューもあったが、3年が経ったタイミングでコースのみに変更。旬の食材をふんだんに取り入れ、約1カ月半ごとにメニューを入れ替える形に変えたという。コースメニューは、来店してからのお楽しみ。それにともない客単価も上がり、いまだとだいたい10,000円から15,000円だ。
お店をはじめた頃のキャッシュレス決済比率は5割くらいだったそうだが、コロナ禍の影響もあり、今では8割ほどに増えた。キャッシュレス決済を希望するお客さまが多いからこそ、端末の使いやすさはとても重要、かつ一番気に入っている点だという。
「金額を打ち込むだけで決済できるってところが使いやすいですよね。操作に迷いがないです。サイズ感もちょうどいいですよね」
エスタシオンで利用している「Square ターミナル」にはPOSレジがすでにインストールされている。端末の電源を入れ、アカウントにログインし、会計金額を入力すれば決済を受け付けられる。おかげで、ストレスなく使いはじめることができたそうだ。
さらに現金決済が減ったことによって、両替のために銀行に足を運ぶ頻度も減った。手間も、手数料も省けたのはうれしい点のようだ。
「前までは1週間に2回ぐらいは行ってましたね。今だと月に2回とかしか行ってないんじゃないですかね」
欲を言えばキャッシュレス決済のみにしたいそうだが、現金主義のお客さまのためを思い、両方の手段をキープしている。
「(レジについて)これ(Squareの決済端末)と、現金は小さな金庫に入れている感じです。場所を取らないところは、(導入を決めるうえで)結構大きかったです」
2店舗目の「ORI」はオールキャッシュレスに
2022年9月には、エスタシオンから徒歩30秒ほどの場所に立ち飲み形式の「ORI(オリ)」をオープンした。大好きなワインに特化した場を設けたいという思いがあり、エスタシオンをはじめたときから「ORI」のアイデアはずっとあたためてきたという。ORIでは、ソムリエの資格を持ち、ワインをこよなく愛する野堀さんが厳選したボトルがずらりと並び、1杯からでも気軽に楽しめる。
会計については、決済スピードや現金管理の手間削減を重視して、オールキャッシュレスにした。
「『1杯だけ飲みたい』という人もくるので、サクッと支払えるようにキャッシュレス決済のみにしました。やっぱり現金を一切用意しなくていいので楽ですね」
ORIには1日で何組くらいのお客さまが来るのだろう。
「どんどん回転していく店で、1晩で20組くらいは来ます。1週間で100回くらいは決済していることになります」
ただ客層が若いこともあってか、オールキャッシュレスに抵抗を持つお客さまはほとんどいないそうだ。
成功のレシピは、個性
オープンからたった1年で、ミシュランガイド東京のビブグルマンを獲得したエスタシオン。以降、7年連続でビブグルマンに選出された。はじめて掲載されたときの感想を聞くと、「うれしかったですね。料理人にとって、ミシュランは大きいですから。常連さんも喜んでくれました」と野堀さんはいう。掲載された理由はどんなところにあると感じたのだろう。
「うちのようなスタイルでスペイン料理をやっている店が全然なかったので、引っかかってくるかもという思惑はありました」
いまやオープンから8年以上が経つが、コロナ禍の前も後も、連日予約でいっぱいだという。都心で飲食店を営むとなると、空席を作らないのもそうだが、生き残り続けるのも難しい。愛される店であり続けるために、どんなことを重要視しているのだろう。
「飲食店って、気にしなければいくらでもあるじゃないですか。そのなかで生き残っていこうと思ったら、やっぱり個性が必要ですよね。僕たちみたいな小さな飲食店だと、みんなと同じことをやっていても仕方がない。それでは長く続けていけないと思います。
飽きさせないのも大事だと思いますね。 毎回同じ料理だったら、絶対に来ないじゃないですか。毎回、『定期的に行きたくなるな』って思ってもらうのが大事で。ただ常連に限らず、新規のお客さまをちゃんと取っていくためにも、口コミしてもらえるようなサービス提供は心がけていますね」
個性を貫くうえでは、成功体験を重ねていくことも欠かせなかった。
「エル・ブエイやエル・プルポは、自分が何かしないとはじまらないような環境でした。そんななかで自分が試したことがうまくいっていたので、トライし続けることができたんだと思います。それでお客さまが来なかったら『俺、ダメじゃん』というふうになっていたかもしれませんが(笑)」
誰もやっていないことをするのも、お客さまの期待をある意味で裏切ることも、大きな挑戦である。それでも自分がいいと思ったものを信じて、日本人が持つスペイン料理に対する固定概念をどんどん壊していく。そんな姿勢を決して崩そうとしない野堀さんの眼差しは強く、料理について語る表情は生き生きとしていた。
「金額を打ち込むだけで決済できるってところが使いやすいですよね。操作に迷いがないです。サイズ感もちょうどいいですよね」ーエスタシオン オーナーシェフ 野堀貴則さま
9坪のスペイン料理店で役に立ったSquareの特徴
手元資金が足りなかった開業時に、売り上げがすぐに入金された
エスタシオンでは開業後に融資が入金される予定だったため、手元資金が足りない状態でお店をスタートせざるを得ない状況でした。そんななか、キャッシュレス決済の売り上げが最短翌営業日に振り込まれるSquareの入金サイクルには、お店を回していくうえで助けられたといいます。
操作に迷いがなく、すぐに使いこなせた
エスタシオンで利用している決済端末の「Square ターミナル」にはPOSレジがあらかじめインストールされています。Squareのアカウントにログインし、POSレジにお会計金額を打ち込めば決済を受け付けられます。おかげでマニュアルなどを読み込む必要がなく、感覚的に使えたといいます。
レジスペースを作らなくて済んだ
9坪の店舗には、本格的なレジを設置するスペースはありませんでした。野堀さんはコンパクトなSquareの決済端末を導入したことで「レジスペースを作らない」という手段をとることができました。
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執筆は2024年2月22日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。