正社員でもパートタイムでも従業員を雇うのであれば、「雇用保険」に関する知識は必須です。もし義務を怠れば、罰則を受ける可能性もあります。しかし、従業員を初めて雇用するときなど、どんな手続きが必要かがわからない、という事業者もいるでしょう。
今回は、ビジネスオーナーが知っておくべき雇用保険について、わかりやすく解説します。
雇用保険の役割
雇用保険の大きな役割は、「仕事を失った人の生活保障と再就職の促進」です。雇用者、すなわち会社に雇われている人の場合、仕事を辞めると、それ以降の収入が途絶えます。自分の意思で辞めたとしても、生活費用が無ければ、生活の苦しさや精神面での不安から、新しい仕事を探すこともままならないかもしれません。
そこで、国は「失業者が仕事を探している間、生活費用をある程度負担することで、再就職をサポートする」という仕組みを作りました。これが雇用保険制度です。
雇用保険制度について規定しているのが「雇用保険法」であり、昭和50年に施行されました。もともと、雇用保険法の前身として「失業保険法」がありました。そのため、今でも雇用保険のことを失業保険と呼ぶ人もいます。しかし、現在は仕事を失ったときの給付だけでなく、失業の予防やスキルアップにつなげる能力開発事業なども行われています。雇用安定事業を行なっている事業主に対して助成金を交付するケースもあるなど、さまざまな国の対策が実施されています。
雇用保険の加入条件
雇用保険の加入に関して、雇用形態ごとの条件を紹介します。
正規雇用の場合
以下の労働条件に該当すれば、保険加入の対象者となります。
・1週間の所定労働時間が20時間以上であること
・31日以上の雇用見込みがあること
たとえ従業員本人に加入意思がなかったとしても、適用対象となるのであれば、事業主は雇用保険に関する各種手続きを行う必要があります。なお、65歳以上の従業員も対象となる点に注意しましょう。
非正規雇用の場合
非正規雇用の種類に分けて、それぞれ解説します。
・パートタイマー、アルバイト
アルバイトやパートタイマーの人でも、週20時間以上の所定労働時間かつ31日以上雇用され続ける見込みであれば、被保険者となります。
ややこしいのは、学生のアルバイトです。一般的に学生アルバイトは対象外と思われていますが、保険加入の対象となるケースもあります。まず、夜間学生や通信教育を受けている学生、定時制に通っている学生は被保険者です。また、昼間学生のうち、下記の一定の条件を見たす学生は被保険者となります。
卒業見込証明書を有する者であって卒業前に就職し、卒業後も引き続き同一の事業主に勤務することが予定され一般労働者と同様に勤務し得ると認められる場合は被保険者となります
・季節労働者
決まった時期のみ働く、というような短期の雇用を繰り返している従業員の場合、以下の条件に該当していれば被保険者となります。
- 4カ月を超える期間を定めて雇用されること
- 1週間の所定労働時間が30時間以上であること
・日雇労働者
日々雇用される、または30日以内の期間を定めて雇用される人を日雇労働者といいます。雇用保険法第43条に規定する以下の条件に該当すれば、被保険者となります。
一 特別区若しくは公共職業安定所の所在する市町村の区域(厚生労働大臣が指定する区域を除く。)又はこれらに隣接する市町村の全部又は一部の区域であつて、厚生労働大臣が指定するもの(以下この項において「適用区域」という。)に居住し、適用事業に雇用される者
二 適用区域外の地域に居住し、適用区域内にある適用事業に雇用される者
三 適用区域外の地域に居住し、適用区域外の地域にある適用事業であつて、日雇労働の労働市場の状況その他の事情に基づいて厚生労働大臣が指定したものに雇用される者
四 前三号に掲げる者のほか、厚生労働省令で定めるところにより公共職業安定所長の認可を受けた者
引用:雇用保険法
判断に迷う場合は、ハローワークで確認するのがおすすめです。
個人事業主も加入できるのか
個人事業主でも、前述した条件に該当する従業員を雇うのであれば、加入が必要です。ただし、一部の例外を除き、個人事業主と同居している親族は対象外となりますので、注意が必要です。
なお、個人事業主自身が被保険者となることはありません。
加入の手続き
雇用保険に加入するときの手続きの流れや必要書類について解説します。
必要な手続き
雇用保険に関する大まかな流れは、以下のとおりです。
(1)初めて従業員を雇うときは、まず労働基準監督署で労働保険の手続きを行う
(2)次に、ハローワークで雇用保険の手続きを行う
(3)雇用保険被保険者証を従業員に渡す
それぞれのステップを詳しく見ていきます。
もし初めて従業員を雇うのであれば、まずは「労働保険(雇用保険および労災保険)に入る必要が出たこと」を届け出る必要があります。具体的には、労働基準監督署に「労働保険保険関係成立届」を提出します。ここで、労働保険保険関係成立届に受理印が押されるため、事業主用の控えを返してもらいます。
次に、「雇用保険が適用される事業所になったこと」「雇用保険の被保険者がいること」を届け出ます。
具体的には、以下の書類をハローワークに提出します。
・雇用保険適用事業所設置届
・雇用保険被保険者資格取得届
・労働保険保険関係成立届事業主控え
・事業の実在を確認できる書類(登記簿謄本、事業許可書など)
・労働者の雇用実態、賃金の支払いを確認できる書類(賃金台帳、労働者名簿、雇用契約書など)
参考:雇用保険適用事業所を設置する場合の 手続きについて(厚生労働省)
被保険者に関する届出が受理されると、ハローワークから「雇用保険被保険者証」が交付されます。事業主は、この証明書を従業員本人に渡します。なお、今後新しく従業員を雇い入れるごとに、被保険者の資格取得届をハローワークに提出することになります。
社会保険労務士や労働保険事務組合に手続きを委託している場合、賃金台帳などの必要書類の提出を省略できる場合がありますので、確認するのがおすすめです。
従業員に提出してもらうべき書類
事業主は、届出の書類に「被保険者番号」および「マイナンバー(個人番号)」を記載する必要があります。そのため、従業員からは、これらの番号がわかる書類などを提出してもらいましょう。具体的には、以下の書類が挙げられます。
・雇用保険被保険者証
・マイナンバー通知カード
・マイナンバーカード(個人番号カード)
・マイナンバー記載の住民票
従業員によっては、雇用保険被保険者証を無くして被保険者番号がわからない、という場合があります。その際は、ハローワークへ行けば再発行してもらえることを伝えましょう。
離職した場合の手続き
雇用保険被保険者が離職した場合は、離職した日の翌日から10日以内に、以下の書類をハローワークに提出します。
・雇用保険被保険者資格喪失届
・離職証明書
従業員が条件から外れた場合の手続き
雇っている従業員の労働時間が週15時間になるなど、被保険者の条件に該当しなくなることがあります。そのときは、該当する従業員が職を離れたものと見なして、手続きを行います。
雇用保険の注意点
要件を満たす従業員がいるのに雇用保険加入の手続きを行わなかった場合、雇用保険法第83条の罰則規定に基づき、懲役6カ月以下もしくは罰金30万円が科されます。また、虚偽の内容で届出をすることも罰則対象となります。
雇用保険は、失業者の生活安定と早期の再就職を後押しするためのものです。もし適用対象となる従業員を雇うのであれば、ビジネスオーナーとして、その従業員を必ず保険に加入させなければなりません。この義務を怠ると罰則を受ける可能性があるため、必ず加入条件のチェックを忘れないようにしましょう。
執筆は2019年11月12日時点の情報を参照しています。
当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。
Photography provided by, Unsplash