環境・社会・企業統治を考慮した投資、ESG投資とは!?

企業の価値をはかる指標として環境、社会、企業統治を意味する英単語の頭文字をとった「ESG」があります。これらに重きをおいた投資はESG投資と呼ばれています。本記事ではESGを意識した経営に興味を持つ事業者を対象に「ESG投資」について説明します。

ESG投資とその背景

2006年にアナン国連事務総長が責任投資原則(PRI、Principles for Responsible Investment)を提唱し、欧米を中心に世界の機関投資家が環境(Environment)や社会問題(Social)、企業統治(Governance)を投資において考慮するESG投資の流れが生まれました。国連によると、2006年の発足以来、責任投資原則に署名した機関数、投資額ともに増加を続け、2019年時点で2,250を超える機関が責任投資原則に署名しています。

参考: 国連責任投資原則(日本語資料)

日本では経済産業省が特設ページを設けてESG投資について説明しています。2015年に年金積立金管理運用独立行政法人がPRIに署名をしたことや、政府の国連持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みと合わせて、世界に追随する形でESG投資の流れが生まれています 。

参考: ESG投資(経済産業省)

事業者としては、世界の投資家は経営状況や財務情報だけでなく、環境や社会問題への取り組み、企業統治についても投資判断の指標として興味を持っていることを押さえておきたいところです。いくら収支がよくても、環境に負荷をかけ、反社会的と判断されかねない事業を展開したら、ESGの観点からは優良な投資先とは判断されません。一方、事業の成長はゆっくりでも、環境に配慮し社会に貢献する事業者はESG投資の候補となる可能性があります。

欧米の消費者を中心に環境や倫理に配慮した商品やサービスを購入するエシカル消費の考え方が広がる中、投資家が環境、社会、企業統治といった視点を持つのは自然なことといえるでしょう。

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ESG投資の評価方法

企業の環境や社会への貢献、企業統治といった指標は、これまで投資判断の指標とされてきた財務情報といった数値的な指標よりも算出が難しくなります。ESG投資の広まりと合わせてさまざまな格付けや投資手法が提唱されています。

ESG格付け

2019年には世界的な格付け機関のムーディーズフィッチ・レーティングスがESGに関する評価手法を発表しています。このほかにもESGについてはさまざまな格付けや評価指標が存在し、国際的なNGOのCDPによるレポート、経済・金融情報を配信するブルームバーグのESGデータScoresなどが知られています。

日本の年金積立金管理運用独立行政法人は、ロンドン取引所が出資するFTSE RussellのESG指数と、金融サービスを提供するMSCIのMSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数などを指標として採用しています。ただ、ESGの観点からの企業評価は未だ新しい分野で、個々の組織や会社による格付け手法や指標には偏りがあるという指摘もあります。 これらには今後改善の余地があり、投資家は各種格付けや指標を独自に組み合わせて投資判断を行っています。

日本の年金積立金管理運用独立行政法人は採用しているESG指数を公開しています。FTSE、MSCIを総合型指数として採用するほか、環境についてはS&P/JPX carbon efficient index、社会についてはMSCI日本株女性活躍指数を採用しています(企業統治については2018年9月時点で採用なし)。

参考:グローバル環境株式指数を選定しました(年金積立金管理運用独立行政法人 )

事業者としてはこれら採用指標から、一般的なESGに関する取り組みに加えて、環境情報の開示、売上高あたりの炭素排出量削減、女性登用に力を入れることで投資家の評価を得られそうだと知ることができます。

ESG投資手法

ESG投資を推進する世界7団体の協働組織GSIAの「2018 Global Sustainable Investment Review」を基にした日興リサーチセンターのレポートでは主要なESG投資手法と手法別の資産残高が紹介されています。

参考:日興リサーチレビュー GSIA 「2018 Global Sustainable Investment Review」を発表(日興リサーチセンター)

同レポートによるともっとも投資残高の多いESG投資手法はネガティブ・スクリーニングと呼ばれるもので、ESGの観点から問題のある企業や業種を投資先から外すというものです。続いて投資残高の多いESGインテグレーションと呼ばれる手法は、大きく投資残高を伸ばしている手法で、従来の投資プロセスでESGについても考慮し投資判断をするというものです。

そのほか、ESGの特定テーマに取り組む事業にしぼって投資する、環境や社会問題の解決を目指す事業にのみ投資するといった投資手法もあり、関連する分野で事業を営む経営者はこのような投資手法があることを知っておくとよいでしょう。

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事業者にとってのメリット

ESG投資の広まりは、事業者にとって新たな投資を呼び込む以外にもメリットがあります。ESGに関する指標で高い評価を得ている企業は収益性や株価純資産倍率(PBR)、安定性が高いという調査結果もあります。

参考: ESGと企業経営について(みずほフィナンシャルグループ)

企業が環境や社会問題、企業統治にきちんと取り組んでいるか、投資家の監視が強まることで、反社会的な行動の抑止力になります。また、事業者自身がESGを意識し課題解決に取り組もうとすることで、一時的に事業の負担になったとしても、長期的には投資家だけでなくお客様の支持も得て、収益の増加につながる可能性があります。環境や社会問題の解決に取り組む中で新しい事業のアイデアが出てくることもあるかもしれません。

これは大企業に限ったことでなく、中小企業、個人事業主にもいえることです。たとえば、これまで価格重視で食材を仕入れていたところ、近隣の環境に配慮した生産を心がける農家から食材を仕入れるようにし、積極的にお客様に情報公開をするのも社会や環境に対してインパクトのある行動です。中小企業でこれまで男性中心だった経営層に多様な従業員を登用していくのもESGを考慮した行動です。金銭的なコストやコミュニケーションコストが増すようにもみえますが、長期的には事業者自身は気持ちよく事業に取り組め、お客様も投資家も真摯な事業者を支持することは一目瞭然です。

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注意したい点

ESGを意識することは事業者に多くのメリットをもたらしますが、あくまで事業の目的は収益をあげることです。環境や社会問題を解決したい、お客様や投資家から評価されたいという気持ちは事業者に共通するものですが、ESGを意識しすぎるあまり本業が成り立たなくなってしまっては元も子もありません。

ESGの観点から業務改善や新規事業に取り組む場合は、一気に取り組むのではなく、小さな一歩を積み重ねていくとよいでしょう。すぐに取り組めるものとして、情報の開示があります。企業がどのように統治されているのか、もしすでに環境や社会問題に対する取り組みがあればこれらについてより詳しく開示していくとよいでしょう。

また、事業を営む中で耳にする「従業員の多様性が足りない」「子育て中の従業員がワークライフバランスに悩んでいる」といった課題がヒントになることもあります。女性を登用する、労働時間を柔軟にして働きやすい環境を作るといった改善も立派な社会問題への対応です。体面を気にしてのESG対策ではなく、事業として収益をあげつつ本当に取り組むべき課題としてESGへの対応を進めるようにしましょう。

また、企業内での取り組みに限界を感じた場合には、同規模、同業種の企業の取り組みを参考にしてみる、地域の商工会議所に相談してみるのも一つの手です。一定以上の規模の企業については、格付けなどの指標に対応するためのコンサルティングサービスもあるようです。外部の目が必要と感じたときはこのようなサービスの利用を検討してみてもよいでしょう。

執筆は2019年8月9日時点の情報を参照しています。
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