アニメやマンガの聖地としてにぎわうJR秋葉原駅から都営新宿線小川町駅方面に7分ほど歩くと、神田須田町にたどり着く。そこには秋葉原の喧騒とは打って変わって、まるで昭和初期にタイムスリップしたかのような静かな光景が広がっている。かつて「連雀町」の名で親しまれたこの場所には、東京大空襲を免れた老舗の飲食店の多くが残る。
今回お話を聞いたのは、ここで120余年営業してきた鳥すきやきの老舗「ぼたん」の5代目、城一泰貴(じょういち たいき)さん。コロナ禍をきっかけに5代目を継いだ城一さんは、従業員の日々の業務負担を減らし、業務効率を上げようとこれまでのしくみを一新してきた。その一連で導入したのがSquareだ。以前の決済サービスから乗り換えた理由や、その効果について聞いた。
業種 | 飲食業 |
業態 | 鳥すきやき店 |
使用しているサービス | Square ターミナル |
目次
- 娘婿として後を継ぐことに
- 階段を往復する回数が、1日80回からほぼゼロに
- テーブル会計はお客さまの不安払拭、購入単価アップに貢献
- お土産の購入率がアップ
- 差異の原因をすぐに解明できる
- すぐに使い慣れた
- ぼたんの5代目として
- Squareで実現できたこと
娘婿として後を継ぐことに
城一さんが最初に改善しようと決めたのは、すべてが手書きの従来のシステムだ。城一さんが加わるまで、売り上げは手書きで大福帳に記入しており、従業員の給与計算も、注文をとるのも全部手書きだった。
※江戸時代・明治時代に使用されていた、手書きの商業帳簿のこと。
従業員の負担削減もかねて、真っ先にこれらの業務のデジタル化と効率化に取り組むことにした。その一貫で、従来の据え置き型の決済端末からSquareの持ち運べる決済端末「Square ターミナル」に切り替えた。
階段を往復する回数が、1日40回からほぼゼロに
昭和初期に建てられたぼたんの店舗は2階建てだ。これまでは1階に据え置き型の決済端末があり、2階で接客をする仲居さんはカード決済のたびに階段を3往復していた。
まず、2階のお客さまから会計の依頼を受け、1階に降り、会計の計算をする。その後、会計表を持って2階に上がる。ここで1往復だ。お客さまからカードを預かり、再び1階に降り、決済をする。次にお客さまにサインをもらうために2階まで上がる。ここで2往復。最後にサイン済みのレシートを1階の帳場に戻したら2階の持ち場に戻り、ようやく行き来が終わる。繁忙期には、20段ほどある階段を1日40往復もしていたそうだ。
「Squareは持ち運べるので、各階に数台用意しておくことで、階段の上がり下がりがほぼゼロになりました。Squareを入れて一番変わったのはここです」と城一さんはいう。
また、以前までは決済端末が1台しかなかったこともあり、会計にかかる時間は短くても5分、会計が混み合う閉店時には10分以上かかることもあった。Squareの端末を複数台導入したことで、混み合う時間でも、会計は1、2分で終わるようになった。
「夜って1日30組ぐらい入るので。1決済の時間を3分短縮できると、一晩で90分短縮じゃないですか。仲居さん一人あたり1時間半の業務を削減できることになりますよね。これ、めちゃくちゃでかいんです。効率も疲労感も変わるし、 お客さまのサービスに時間を割けるようにもなります」
現金決済のときは1階のキャッシュドロワーまでお釣りを取りに行くこともあるが、支払いの7割ほどがキャッシュレスのため、上り下りの回数は劇的に削減されたと話す。
テーブル会計はお客さまの不安払拭、購入単価アップに貢献
これまではカードを預かる流れだったため、お客さまに少なからず不安を与えることもあった。お客さまによってはレジまで同行することもあったそうだ。
「預かっている以上、なくす可能性は絶対に出てきてしまいますよね。それが嫌だなと思っていました。Square ターミナルなら、お客さまの目の前で決済ができます。今だと『(カードを)挿してください』『抜いてください』とお客さまにお願いしているので、僕たちは一切カードを触りません。なくす可能性もゼロですよね」
決済時にPINコードの入力を省略し署名で対応する「PINバイパス」と呼ばれる方法は、2025年3月に廃止される。つまり、飲食店では「カードを預かり、お客さまのいない場で決済をする」こと自体ができなくなる。このような流れもあることからぼたんのように、持ち運べる決済端末が今後はスタンダードになっていくことが予想される。
お土産の購入率がアップ
テーブル会計ができるようになったことから、ぼたんのお土産品であるそぼろを購入するお客さまも増えたという。
「これまでは決済時にテーブルを離れてしまっていたので、絶対に起きえなかったことだと思うんですけど、その場でカード決済を受けているときに『そういえば、お土産も』と言われるようになりました。具体的にどれくらいというのはなんとも言えないですけど、増えた感じはしますね」
差異の原因をすぐに解明できる
もう一つ、Squareにしてよかったことがあるという。レジ締め作業などで見つかる差異の原因が、一瞬にしてわかるようになったことだ。
以前までは、差異が発生すると大量の控えを見返すか、1日の終わりに発行するカードの売上伝票の印字内容を一つひとつ確認していた。
控えは数が多く、カードの売上伝票は見にくい。どの時間にどの会計を受け付けたかは瞬時に把握できるものではなく、大量の控えを見返すことも少なくなかった。差異が大きいとこの作業はどうしても避けられず、時には1日がけで行うこともあった。
Squareにしてからは、取引履歴の画面にアクセスするだけで、決済取引が日時順に一覧で表示されるようになり、大量の控えを見返す作業がまるごとなくなった。
すぐに使い慣れた
業務効率化を進めることで改善されることも多い一方で、新しいシステムを覚え直すのは大変な作業でもある。Squareの導入や使用に、難しさはあったのだろうか。
「すぐに導入できましたよ。全然難しくもなく。仲居さんたちが慣れるのもすぐでしたね。僕が教えて、あとは自分たちで教え合ってました」
ぼたんの5代目として
飲食業とひと口に言っても、どんな街にお店をかまえるかによって、商いの経験は大きく変わるものだろう。コロナ禍でぼたんの5代目に転身した城一さんに、ぼたんがある神田への思いを聞いてみた。
「神田は千代田区のなかでもかなり下町の雰囲気が強い場所です。老舗の飲食店も多くて、千代田区でも結構異質な感じがします。でもみんな協力的で、人に優しいです。外から入ってくる人たちに対してもすごく寛容です。神田の街の魅力はそういうところにあると思います」
下町の名残をとどめる神田の一角で、ぼたんは明治30年の創業以来、専用の火鉢に備長炭をくべ、そのうえに鉄鍋を置き、看板メニューである鳥すきやきを提供してきた。4世代にわたって通うお客さまもいるという。5代目としてはどのような思いを抱いているのだろう。
「自分の代で終えるわけにはいきませんので、ぼたんの本店は守っていかないといけないと思っています。同時に、コロナのようなことがまた起きても強い企業体は作っていかないといけないと感じています。自分の下の世代も育てながら、つなげていけるようなしくみづくりをしていきたいです」
「Squareは持ち運べるので、各階に数台用意しておくことで、階段の上がり下がりがゼロになりました。Squareを入れて一番変わったのはここです」ーぼたん 5代目 城一泰貴さま
Squareで実現できたこと
テーブル会計ができるようになった
ぼたんは2階建ての建物でありながら、据え置き型の決済端末が1階にしかなかく、決済のたびに仲居さんが20段ほどある階段を1.5往復していました。繁忙期には1日あたりの往復回数が80回ほどになります。ワイヤレスで持ち運べる決済端末、Square ターミナルを導入してからは、各階に端末を用意することで階段の上り下りをなくすことができました。
お客さまの不安を払拭できるようになった
決済時にカードを預かることは、お客さまを不安にさせてしまう要素でした。テーブル会計を受け付けるようになったことで、お客さまも、仲居さんも、安心して決済をできるようになりました。
お土産の購入率がアップした
決済時に仲居さんがテーブルを離れなくなったことで、お客さまがお土産をお会計時に購入しやすくなったといいます。結果として、お土産の購入率が上がったそうです。
差異の原因が一瞬にしてわかるようになった
締め作業で大きな差異が発覚した場合、以前までは大量の控えなどを見返しながら原因を追求していました。控えを一つひとつ見返す作業はなかなか大掛かりで、長いときは1日かかることもありました。Squareなら受け付けた日時順に取引履歴を一覧できるため、大量の控えを見返す作業がなくなりました。
記事に掲載されている店舗情報 (商品内容、価格、営業時間など) は2024年8月時点のものです。