職場を無事に退職し、不安と期待が入り混じるなか迎えるフリーランスとしての生活。今後は働き方が変わり、事務処理から金銭管理まで、すべてを自分で行わなければいけません。なかでも面倒な印象を抱かれがちなのが、経理業務です。
この記事では、会社員からフリーランスになる人に向けて、経理業務の内容、経理代行に頼まず自ら行うメリット、経理業務をラクにするために取り入れたいツールなどを紹介します。フリーランスとしてやるべきことをしっかり確認し、万全の準備を整えましょう。
目次
経理業務を自分で行うメリット
フリーランスになると会社勤めとは違い、普段の仕事にくわえて、経費精算、請求書の発行、入金確認、従業員の給与計算など、多種多様なお金に関する業務を自身で行うことになります。
経理代行を活用することもできますが、月々数千円から数万円ほどの費用が発生するため、まずは自分でやってみようと思う人も多いでしょう。自分でやるからこそ得られるメリットもあるので怖がらずに一歩踏み出したいところです。
ここでは経理業務を自身で担うメリットを見てみましょう。
経営戦略が立てやすくなる
事業の売り上げや経費など出入金を細かく自分で帳簿付けすることになるので、お金の動きと日々向き合えるようになります。
お金の流れに関する理解が深まると、より具体的で実現性の高い経営戦略も立てやすくなるでしょう。税理士にすべて代行してもらうのは簡単ではありますが、自ら知識と経験を蓄えていくことはゆくゆくは大きな成功につながります。
コスト節約になる
経理代行費用の相場は、月々、数千円から数万円ほどだといわれています。業務の一部だけを委託し、費用をおさえることもできますが、すべてを委託する場合にはどうしても費用が膨らみます。
フリーランスとして請け負う業務にもよりますが、開業当初は出費が多かったり、安定的な収入を得るまで時間がかかったりすることもあるでしょう。そういったなかで、代行費用をかけずに済むことはメリットとなります。
フリーランスが行う経理業務
毎日行うこと、毎月行うこと、毎年行うことに分けて、フリーランスが担う経理業務を見ていきましょう。
毎日行うこと
日々の経理業務には以下が含まれます。
- 入ってくるお金を記帳する
- 出ていくお金を記帳する
- 領収書、見積書、請求書、納品書などの整理し保存する
毎日記帳する必要はないと思うかもしれませんが、少しずつ作業を進めておくことで確定申告時の負担が軽くなります。確定申告には「青色申告」と「白色申告」の2種類があり、それぞれ記帳方法が異なります。特に青色申告は帳簿付けが複雑なため、会計ソフトを導入すると作業が一段と楽になります。
また、お金の出入りを証明する領収書や請求書には保存義務があり、保存期間にも定めがあります。紛失しないよう、ルールを決めて整理し、保存しておきましょう。
毎月行うこと
月々の経理業務には大きく以下があります。
- 通帳の記帳、または入出金チェック
- 請求書の発行
- 仕入れ先への支払い
- 帳簿の抜け漏れの確認
- 領収書や請求書などの整理と保存
月末には1カ月分の取引を確認しましょう。最近だと入出金をオンラインで確認できる金融機関も少なくありません。このような金融機関を利用すると、スマートフォンなどからでも取引情報が確認できるのでおすすめです。
また、請求し忘れているものがないか、記帳し忘れているものがないかなども確認しておきましょう。従業員を雇っている場合は、給与計算や給与振込、源泉所得税の納付も行います。
参考:No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例(国税庁)
毎年行うこと
主に決算月と確定申告の時期に行うのが以下の業務です。
- 棚卸作業
仕入れた商品や材料の在庫数を数えて記録する作業です。在庫数が多い場合、毎月実施することもあります。 - 1年間の収入と支出の整理
決算書を作成するうえで、これまでの記帳や仕訳に漏れや誤りがないかを確認と修正をします。 - 決算書の作成
青色申告を選択した事業主は、「青色申告決算書」を作成します。 - 確定申告
確定申告では、1年間の所得から所得税額を算出し、納税します。詳しくは「確定申告のやり方」にて紹介しています。
従業員がいる場合は、年末調整や源泉徴収票の発行、給与支払報告書の作成といった業務もあります。
フリーランスに必要な経理の基礎知識
経理業務を始めると、聞いたことのない単語が出会うことも増えます。ここでは、ぜひ知っておきたい重要な点について説明していきます。
帳簿付け(記帳)
フリーランスの日々の業務として、帳簿付け(記帳)があります。確定申告時に正確な納税額を算出できるよう、事業に関連した出入金を帳簿に記入する作業です。毎日欠かさず帳簿を付けることで、どこに費用をかけすぎているのか、どれくらい資産があるのかなどが数字化されるため、適切な経営判断を下すうえで欠かせない作業だといえます。
単式簿記(簡易式簿記)と複式簿記
帳簿の付けかたは「単式簿記(以下、簡易簿記)」と「複式簿記」と2通りの方法があります。確定申告を白色申告で行う場合には簡易簿記で、青色申告をする場合には複式簿記で帳簿付けします。
簡易簿記はその名の通り簡易化された方式で、収入と支出を記録し、残高がわかるしくみです。家計簿やお小遣い帳と同じような方法で記帳していくので、手間が少ないのがメリットです。
一方、複式簿記はもう一歩踏み込んで「仕訳」を行うことで、収入や支出の原因と結果、資産と負債の増減を細かく把握できるようになります。青色申告では最大65万円の控除が受けられますが、複式簿記による記帳が条件となります。
経費になるものとならないもの
経費を費用として計上することは、課税される所得金額を小さくして、納税額を減らす方法の一つです。そのため、節税に取り組むには経費について必ず理解しておきましょう。
経費になるものとならないものについては以下の表を参考ください。
経費になるもの | 経費にならないもの |
・仕入れ費 ・水道光熱費や通信費 ・消耗品費 ・旅費や交通費 ・接待交際費 ・給料賃金や福利厚生費 ・広告宣伝費 ・地代家賃 ・税金 |
・個人事業主の給料 ・個人事業主の社会保険料 ・事業とは関係のないことに使った費用 ・税金 |
また、経費を計上するには領収書やレシートの保管が必須です。上記に当てはまる支出が生じた際には、領収書などを忘れずに発行してもらいましょう。なかにはレシートの写真をスマートフォンで撮影すると自動的にその内容をデータ化してくれるクラウド会計サービスもあります。このような機能にも注目しておくといいでしょう。
以下の記事では経費についてさらに詳しく紹介しています。
▶️正しく理解できていますか?「経費で落とす」とは?
「青色申告」と「白色申告」の違い
確定申告には、白色申告と青色申告の2種類があります。
青色申告には事前に開業届と青色申告承認申請書の提出が必要で、白色申告は特に申請書の提出は必要ありません。
青色申告の最大のメリットは何といっても最大65万円の青色申告特別控除を受けられるところです。さらには赤字を3年間繰り越すこともできます。ただし、手続きは少し煩雑です。青色申告で控除受けるには、確定申告書のほかに複式簿記で記帳した青色申告決算書が必要になります。
一方、白色申告は特別控除がなく、基礎控除のみです。その代わり、簡易な方法で記帳した収支決算書を提出すればいいため、負担が少ないというメリットがあります。
どちらの方法が自分に合っているのかを見極めたうえで、申告方法を選択しましょう。
確定申告とは
そもそも確定申告とは何を行うための手続きなのでしょうか。おおまかにいうと、1月1日から12月31日までの事業収入や経費、各種控除から所得税を計算し、納税申告するための手続きです。
提出期間は翌年の2月16日から3月15日までで、提出方法は管轄の税務署にて、あるいは郵送、もしくはオンラインで行うことができます。
青色申告をしている場合、郵送で、あるいは税務署にて書類を提出をすると控除額は55万円ですが、オンラインで申告をすると控除額が65万円になります。このようにオンラインで申告をすると節税にも取り組めるので、おすすめです。
確定申告に必要な書類や詳しい手順については「【2024年版】確定申告のやり方や必要な書類を徹底解説」を確認しましょう。
決算書とは
青色申告をする場合には、毎年行うタスクとして決算書の作成があります。決算書は確定申告と混同されやすいですが、実は別物なので注意が必要です。
確定申告の主な目的は正確な所得税を算出することですが、決算書の目的は1年間の収入と支出を可視化することです。確定申告で青色申告を行う場合に決算書の添付が必須となるので、確定申告書とあわせて作成するようにしましょう。
青色申告決算書には以下の内容が含まれます。
- 損益計算書
- 貸借対照表
- 製造原価の計算
- 減価償却費の計算
日頃からクラウド会計ソフトを利用しておくと、毎日の帳簿付けの情報をもとにこれらの書類が作成できるため、いちから作るよりもぐんと手間が減ります。また決算や確定申告のときにだけ税理士にサポートしてもらうという手もあります。不安な場合は検討してみるといいでしょう。
フリーランスの経理業務を効率化するには
経理業務を1人で担うにはメリットがある一方で、日々の仕事のことも考えると、経理業務になかなか時間を割けないという人も多いでしょう。ここでは業務効率化に役立つ術を3つ紹介します。
(1)クラウド会計ソフトを使う
クラウド会計ソフトとは、日々の帳簿付けから確定申告書類の作成まで経理にまつわる業務に役立つ機能を取り揃えたソフトです。近年だと月々数千円程度で利用できるサービスもあるので、経理代行などに依頼するよりもコストを抑えつつ業務効率化に取り組めます。
クレジットカードや決済システムとの連携機能を提供しているサービスも多く、入力も仕訳もソフトに任せられるため、手作業がぐんと減ります。クラウド会計ソフトであればソフトウェアをダウンロードする必要がなく、スマートフォンやパソコンから利用するサービスにログインするだけで、簡単に情報にアクセスできます。
代表的なサービスは以下の通りです。
freeeとマネーフォワードは、決済サービスSquareとの連携が可能です。連携すると、Squareで受け付けた売上情報が自動で会計ソフトに反映されるので、手入力で行う作業がぐっと削減されます。
Squareでは以下のサービスが利用できます。
無料アカウントを作成するだけで利用できる機能も多い(※2)ので、まずは試してみるといいかもしれません。
※1:Square 資金調達は、Squareをすでに利用しており、かつ所定の条件を満たしているSquare 加盟店が対象です。
※2:一部の機能は、有料プランの利用が必要になります。
(2)現金の処理を減らす
経理業務を効率化するには、可能な限り作業を自動化していくことが鍵です。最善策として、前章で触れたクラウド会計ソフトと連携できるサービスを積極的に活用していくことが挙げられます。
具体的には以下のようなことが実現できます。
✅経費が自動で帳簿付けされる:事業用クレジットカードをクラウド会計ソフトと連携した場合
✅売上情報が自動で帳簿付けされる:キャッシュレス決済サービスをクラウド会計ソフトと連携した場合
✅請求先からの支払いが自動で帳簿付けされる:インターネットバンキングが利用できる銀行口座をクラウド会計ソフトと連携した場合
など
一方で連携機能を利用しない場合、手入力に頼る作業が増える可能性があります。たとえば、
- 現金払いのみかつPOSレジを使用していない
- 経費を現金で支払っている
というような場合、自らの手で帳簿を付ける必要が出てきます。クラウド会計ソフトと連携できる事業用クレジットカードやキャッシュレス決済を積極的に導入し、できるだけ現金の利用を減らすことが、効率化を狙ううえでは効果的です。
(3)代行・アウトソーシングを利用する
どうしても自分で経理業務を行うことが難しい場合は、経理代行に依頼することもできます。記帳代行だけ、給与計算だけなど、業務の一部を委託することもできれば、すべて任せることもできます。費用はどれだけの業務を委託するかによって変動するので、コストを抑えたい場合には、手間が一番かかる作業だけ委託することを検討してみてもいいでしょう。
経理業務をはじめるための4つのステップ
1. 事業用口座を開設する
収入や支出などの帳簿づけも自分の仕事の範囲内となる、フリーランス。面倒な帳簿づけを効率化するには「個人用とは別で、事業用口座を開設する」という手段があります。メリットとしては下記が挙げられます。
・帳簿づけがスムーズになり、確定申告がラクになる
帳簿づけの作業時間を削減するうえで活用したい、会計ソフト。多くの会計ソフトには、口座と連携させることで資金の出入りを自動的に記帳できるという便利な機能がついています。
一つの口座でプライベートと事業の資金を両方管理してしまうと、のちのち、どれが仕事でどれがプライベートか、一つ一つの取引内容を自ら精査しなければいけなくなり、せっかくある会計ソフトの便利機能を有効活用できません。一方で事業用口座を会計ソフトに紐づけておけば、帳簿づけだけでなく確定申告の書類作成も円滑に行えるのでおすすめです。
・万が一の税務調査に備えることができる
事業用と個人の収入・支出とが一つの口座に混在していると、「個人的な出費を事業用として計上しているのでは」と疑われる可能性もなきにしもあらずです。厄介なトラブルを避けるためにも、事業用の口座を開設して最初から分けておくと安心でしょう。
事業用銀行口座の開設を決めたなら。通常口座と屋号入り銀行口座、どっちがおすすめ?
事業用口座には、通常口座、あるいは屋号入り銀行口座のいずれかを開設することになります。開業届を提出した際に屋号を記入している場合は、屋号入り口座の開設が可能です。「屋号入りの口座」と聞くと「個人名を伏せて、屋号名だけで口座を開設できる」と思われがちですが、広く認められているのは、「屋号+氏名」での口座開設であると留意しておきましょう。
最後に、屋号入りの口座を開設するメリットを見ていきましょう。
・信用度向上
なかには個人名の口座への入金を不安に感じるクライアントもいるかもしれません。このような不安を取り除くことに加えて、屋号付きの口座は「遊びや片手間ではなくビジネスをしている」ということをクライアントに伝える最適の方法でもあります。
・新たなビジネスを立ち上げるときに便利
屋号付きの口座であればどの口座がどの事業と紐づいているのかがひと目でわかるので、金銭管理をするうえで混乱を招きにくいのも特長の一つです。また、新たなビジネスを立ち上げるとなった場合に、屋号ごとで口座を管理できると帳簿づけも行いやすいでしょう。
いずれにしても、ムダな作業を削減するうえで個人用と事業用の口座は分けて管理することがおすすめです。
2. ビジネスカードをつくる
事業用口座が開設できたら、次はその口座に紐づけてビジネスカードをつくりましょう。
口座の開設と同様に、帳簿づけを考慮したうえで、プライベートの支出と分けたビジネスカードの作成が好ましいでしょう。その他にビジネスカードを作成するメリットには、下記が挙げられます。
- ビジネスカードの年会費は経費として計上できる
- 個人カードよりも限度額を高く設定できる
- 法人に向けたサービスが充実している
以前までは分割払いやリボ払いができないことがビジネスカードの弱点として挙げられていましたが、最近では一括払いに限らないカードも増えているようです。ただし年会費がかかるものが多いので、特徴などを吟味したうえで決めましょう。
3. 使用したい請求書や見積書のツールを見つける
仕事を受注する際に必要となる見積書と、報酬を受け取る際に欠かせない請求書は、フリーランスが頻繁に作成する書類です。最近ではパソコンやスマートフォンなどのデバイスから、必要項目を入力するだけで簡単に作成できるクラウド見積書・請求書サービスも多く存在します。使用するツールをあらかじめに決めておくと、受注から支払いまでが円滑に進むでしょう。
たとえば、Square 請求書は、メールで請求書や見積書を送ることができます。クライアントのメールアドレスさえ分かれば、パソコンやスマートフォン、タブレットから簡単に送付が可能です。クライアントは受け取ったメールからワンクリックでクレジットカードの決済画面に飛び、24時間365日いつでも支払いができます。導入費用や月額費用は無料(※)で、かかるのは決済ごとの手数料のみです。
※より高度な機能を搭載した月額3,000円の有料プランもあります
クラウドの見積書・請求書サービスはフリーランスにとって便利なツールですが、なかには書類の郵送を希望するクライアントがいるかもしれません。このような要求にもスムーズに対応できるよう、封筒や切手は前もって準備しておくと安心でしょう。
4. 印鑑をつくる
印鑑が必要となる場面は、近年少しずつ減ってきているかもしれません。たとえば、これまで確定申告書には押印する箇所がありましたが、2021年度の税制改正に伴い、押印が不要になりました。電子契約書や電子署名に関するサービスも増えました。ただ、必要な場面に遭遇する確率はゼロではないため、用意しておいても損はないでしょう。
法人の場合は事業用の印鑑が必須となりますが、個人事業主などのフリーランスは、個人名の実印でも対応は可能です。ただし実印として利用するには、住民登録をしている市町村で印鑑登録をする必要があることを留意しておきましょう。屋号を入れた事業用の印鑑をつくる場合は、以下の2種類の印鑑を用意するのが一般的です。
(1)角印
彫られるのは、屋号名のみです。認印として使われることが多く、見積書や請求書、領収書や納品書など対外的なやりとりで使われます。
(2)丸印
屋号名と代表者名が彫られます。契約書など重要な場面では、丸印での捺印が一般的です。
屋号名で仕事を受注していくのであれば、この2種類を用意するといいでしょう。
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執筆は2019年11月13日時点の情報を参照しています。2024年4月26日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。