飲食店を経営していて困るのが、予約を直前にキャンセルする「ドタキャン」や無断キャンセルではないでしょうか。ここでは、飲食店の予約キャンセル問題の現状や、店舗としてどんな対応策ができるのかを具体的に紹介します。
目次
- 予約のキャンセルとは?
・無断キャンセルの現状
・キャンセル料は請求できる?
・無断キャンセルに損害賠償請求はできる? - 無断キャンセルの問題点
・キャンセルの年間発生額は1兆6000億円
・無断キャンセルの被害例 - 予約キャンセルはなぜ起こるのか
・予約ツールの進化
・キャンセル料金の未設定
・予約情報の証拠が残らない
・キャンセル後の対応が大変 - キャンセルの対応策
・事前決済サービスの利用
・キャンセル料回収サービスを利用
・飲食サイトのキャンセル補償を利用
予約のキャンセルとは?
飲食店の予約キャンセルには、直前にキャンセルをする「ドタキャン」と、キャンセルの連絡もなく当日に姿を見せない無断キャンセルの「ノーショー(No show)」があります。また、予約に関しても、コース料理など事前に指定する「コース予約」と、とりあえず席のみを確保する「席のみ予約」に大きく分類されます。
特に「コース予約」は、予約当日に合わせて食材の仕入れやスタッフの手配を済ませていることが多く、キャンセルはお店にとっては大きな痛手です。
無断キャンセルの現状
経済産業省が2018年に公表したレポート内では、無断キャンセル(ノーショー)による損害額は年間で約2,000億円に上ると言及されています。
無断キャンセルが発生した場合、飲食店の損失としては、次のようなものがあげられます。
・本来発生するはずだった売り上げ
・食材の仕入れ費用
・食材の仕込みに要した光熱費や人件費
・食材の廃棄費用
・当日出勤した従業員などの人件費
・他のお客様を断ったことによる機会損失
たとえば、客単価5,000円、月間来客数1,000人の飲食店で、20名のノーショーが発生すると、下図のように利益は67%も減少してしまうことになるのです。
参考:No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポートが発表!
キャンセル料は請求できる?
手痛い無断キャンセルですが、キャンセル料を請求している飲食店はまだほんの一部であることが、前述の経済産業省のレポートでも報告されています。株式会社TableCheckの調査によると、キャンセルポリシーの設定やキャンセル料の請求などの無断キャンセル対策を行っている飲食店は約20%程度で、70%を超える多くの飲食店が無断キャンセル対策を行っていないことが明らかになっています。
なぜ、多くの飲食店で対策をしていないのでしょうか。その理由としては以下の項目が考えられます。
・印象が悪くなる
キャンセル料を請求することで逆恨みされ、SNSなどに書き込まれたり、悪評をたてられたりする不安が生まれます。
・連絡がつかない
事前に予約確認の電話をしても、電話に出てもらえない可能性があります。無断キャンセルのキャンセル料を請求しようとしても、無視されて連絡がつかない場合があります。予約確認やキャンセル料の請求のために何度も電話やメールをすることで、店舗側の負担も増えます。
・損害賠償請求が難しい
キャンセルポリシーをあらかじめ設定していない場合、店舗側の被害額の算定を行うのが難しいだけでなく、お客様が応じない場合は交渉に時間がかかるなど、心的ストレスも大きなものとなります。裁判になれば、弁護士費用などの経費も必要になります。
参考:飲食業界の無断キャンセル・No Showに関する飲食店の意識調査(株式会社TableCheck)
キャンセルに損害賠償請求はできる?
飲食店に予約を入れ、それを飲食店が承諾した時点でお客様との間で契約が成立したと考えられます。キャンセルにより飲食店が損害を被った場合は、契約の債務不履行や不法行為に該当し、損害賠償の請求は可能だと考えられています。ただし、賠償額の算定や裁判などにかかる経費、労力などを考えると、損害賠償請求が実際に行われることは少ないでしょう。
無断キャンセルの問題点
連絡もなく姿を見せない無断キャンセルは、飲食店にとって経済的ダメージもさることながら、「材料を無駄にしてしまった」「新しいお客様を断らなくてはならなかった」などの心的ダメージも与えることになります。
ここでは、無断キャンセルによる被害額と実際の被害例を紹介します。
キャンセルの年間発生額は1兆6000億円
前出の経済産業省によるレポートでは、無断キャンセルが飲食業界全体に与えている損害は、年間で約2,000億円にのぼるとも言及されています。さらに、1日前もしくは2日前に生じる直前キャンセル、いわゆるドタキャンも加えると、その発生率は予約全体の6%を占め、被害額は1兆6,000億円にもおよぶと推計されています。
外食産業の市場規模を年間26兆円、平均人件費率を20%とすると、無断キャンセルの損害額とされる2,000億円は、外食産業従事者全体における賃金の4%弱に相当します。直前キャンセルを含めた被害額1兆6,000億円に至っては、賃金のおよそ30%にも相当することになります。
参考:令和元年(平成31年1月~令和元年12月)外食産業市場規模推計について(一般社団法人日本フードサービス協会)
無断キャンセルの被害例
実際に、無断キャンセルをめぐる裁判が2018年3月に東京簡易裁判所で行われています。
報道によると、2017年4月28日に「40人で宴会をしたい」という予約が都内の飲食店に入りました。飲食店側は店を貸切りにして、1人あたり3,480円のコース料理を準備します。ところが、予約の時間になっても誰も現れず、飲食店側は予約時に聞いていた携帯電話の番号に電話をかけ、ショートメールも送りましたが、何の返事もありませんでした。予約時間から2時間が経過し、痺れを切らした飲食店側が「警察や弁護士に相談する」とメールを送ると、ようやく折り返しの電話がありました。飲食店側が「なぜ、連絡をくれないのか?」と尋ねると「携帯を落とした」というばかりで埒があきませんでした。
その後、連絡もつかなくなったため、飲食店は弁護士に相談します。弁護士もコンタクトを試みますが、はぐらかされるばかりだったため、民事訴訟を起こすことにしました。裁判には被告が現れなかったため、わずか1分で結審し、被告への139,200円の損害賠償費用と訴訟費用を原告に支払うよう判決が出されました。
参考:
飲食店「ドタキャン」裁判を傍聴 わずか1分で店側勝訴、弁護士が明かした対策(2018年3月9日、J-CASTニュース)
宴会の無断キャンセルで裁判も 飲食店、悪質客に対抗(2019年12月1日、日本経済新聞)
予約キャンセルはなぜ起こるのか
2018年には経済産業省が「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」を公表するなど、ここ数年で顕在化してきた無断キャンセル問題は、なぜ起こるのでしょうか。
予約ツールの進化
株式会社TableCheckが消費者を対象に行った調査によると、無断キャンセル時に利用していた予約手段は「グルメサイト予約」が最多となっています。特に20代から30代の利用率が高く、無断キャンセルの経験も20代から30代が多くなっています。
また、グルメサイトからのネット予約のほかに、お店の公式サイトからのネット予約、FacebookやInstagramなどのSNS、Google検索の最上位に表示されるGoogle マップと連動した「Google マイビジネス」など、予約方法は多様化しており、スマートフォンやパソコンから気軽に予約ができるようになったことから「とりあえず場所を確保」「人気店なのでとりあえず予約」などの「とりあえず予約」が増えたことも、無断キャンセルの原因となっているようです。
参考:【2019年版】第3回「飲食店の無断キャンセルに関する消費者意識調査」(株式会社TableCheck)
キャンセル料金の未設定
ホテルや旅館などとは異なり、飲食店でキャンセル料金を設定しているところはまだあまり多くはありません。お客様から「感じが悪い」と思われることを危惧してキャンセル料金の設定を行っていない飲食店も多いのではないでしょうか。
キャンセル料金が未設定の場合、キャンセル料を請求する際には損害額の根拠を細かく算出しなくてはなりません。
損害賠償額の算定は、コース料理と席のみ予約で異なります。
・コース料理の場合
債務不履行によりコース料金の全額が損害と認められることがあります。ただし、その場合においても店舗の収益構造などの事情を踏まえた上で損害額を算定する必要があります。
・席のみ予約の場合
予約の内容が確定していないので、客観的基準で算定した平均客単価の何割かを損害賠償額の目安と考えます。そのためにも、損害賠償額の算定方法を説明できるように事前に準備する必要があります。
予約情報の証拠が残らない
グルメサイトやお店の公式サイトからの予約であれば記録は残るものの、予約者が登録した情報が虚偽のものであった場合は、相手を突き止めるのは至難の業です。また、電話予約などの場合はやりとりが残らないため、「言った言わない」でトラブルになることもあり得ます。
キャンセル後の対応が大変
多くの飲食店では、限られた人数の中で日々の業務をこなしています。無断キャンセルの対応や追跡に割く人手も時間も不足しているというのが、実情ではないでしょうか。
キャンセルの対応策
キャンセルで泣き寝入りしないために、飲食店ができる対策について紹介します。
コミュニケーションをしっかり取る
電話やグルメサイト、お店の公式サイト、FacebookやInstagramなどのSNS、Google マイビジネスなど、予約方法の種類に関わらず、お客様に確認の連絡を入れることでキャンセルを防ぐこともできます。また、予約日前日にリマインドを送るのも有効でしょう。
事前決済サービスの利用
予約と同時に決済を行う事前決済サービスは、無断キャンセルを防ぐ頼もしい味方となります。
キャッシュレス決済サービスを提供するSquareの「Square 予約」なら、事前決済に対応した予約専用ページを作成することができます。事前決済には決済手数料が発生しますが、予約専用ページの作成・運用は無料です。また、企業や団体からの予約には「Square 請求書」を利用する方法もあります。お客様にメールでオンライン請求書を送信でき、請求書にはPDFや画像の添付が可能です。金額の内訳やキャンセルポリシーを添付し、お客様は内容を確認した上でメール内のリンクからクレジットカードで決済をします。お店は支払い状況をリアルタイムで確認でき、入金が遅れているお客様には、リマインダーを送ることも可能です。
キャンセル料回収サービスを利用
飲食店のキャンセルの問題を解決する方法として、キャンセル料回収サービスも登場しています。多くは弁護士が行っているものなので、無断キャンセルで困っている飲食店は相談してみるのも一つの手かもしれません。ここでは、四つのサービスを紹介します。
・Square 予約
前述のSquare 予約にはキャンセル料金を請求する機能があります(※)。お客様は予約する際、クレジットカード情報の入力が求められます。無断キャンセルが発生した場合、お店はキャンセルポリシーに沿ったキャンセル料をお客様のクレジットカードに対して課金することができます。
※:有料機能です。Square 予約の料金プラン詳細はこちらをご確認ください。
・ノーキャンドットコム
弁護士が運営する、飲食店のキャンセル料回収を代行する着手金無料・成果報酬型のサービスです。登録、着手金ともに無料で、成功報酬は回収金額の33%、直近6カ月まで請求可能となっています。飲食店側にキャンセルポリシーの掲載がなくても、無断キャンセルなら対応可能です。
・弁護士法人横浜パートナー法律事務所 キャンセル料回収代行サービス
申込金・着手金無料のサービスです。事前にキャンセルポリシーのアドバイスを受け、ホームページなどに掲載しておきます。実際に無断キャンセルが起こったら、キャンセルポリシーの内容に即して回収します。手数料は回収代金の30%となります。
・ドタキャンバスターズ
会員登録の後、無断キャンセルが発生したら、有料会員か無料会員かを選んでキャンセル料の回収依頼を申し込みます。有料会員の会費は月額1店舗あたり980円、回収手数料は20%です。無料会員は、回収手数料40%となります。
グルメサイトのキャンセル補償を利用
グルメサイトからの無断キャンセルが多いことから、各社グルメサイトでも加盟する飲食店に対してキャンセルを防止するサービスを強化しています。
・食べログ
Gardia株式会社では食べログの加盟店向けに、大人数での予約を対象に無断キャンセルによる損害の一部をサポートしています。
参考:Gardia(ガルディア)保証サービスを食べログに提供開始!希望する飲食店を対象にサービスを提供(Gardia株式会社)
・ぐるなび
ぐるなびは、2021年11月から「無断キャンセル保険」の提供を開始しました。月額33,000円のベーシックプランに加入している加盟店が対象です。
参考:ぐるなび「無断キャンセル保険」(2021年11月1日、一般社団法人共同通信)
・favy
グルメサイトなどを運営しているfavyは、前述のノーキャンドットコムと提携し、無断キャンセル客へのキャンセル料回収を行っています。
参考:飲食店のノーショー被害を減らしたい!favyと弁護士によるノーショー対策「ノーキャンドットコム」が提携開始(2019年12月10日、株式会社favy)
飲食店のキャンセル問題に対して、経済産業省などの関係省庁や各企業がさまざまな対策に取り組み始めています。事前決済の導入やキャンセル保険の利用など、テクノロジーの力を借りながらキャンセル対策に取り組み、お店の利益拡大を目指しましょう。
予約管理はSquare 予約で
Squareの予約管理は無料から導入でき、事前決済はもちろん、有料プランの場合はキャンセル料も取れるので、ノーショウ対策もできます。専用アプリでも、お使いのブラウザでも、場所を問わず、どこでも予約の状況を確認、調整できます。
Squareのブログでは、起業したい、自分のビジネスをさらに発展させたい、と考える人に向けて情報を発信しています。お届けするのは集客に使えるアイデア、資金運用や税金の知識、最新のキャッシュレス事情など。また、Square加盟店の取材記事では、日々経営に向き合う人たちの試行錯誤の様子や、乗り越えてきた壁を垣間見ることができます。Squareブログ編集チームでは、記事を通してビジネスの立ち上げから日々の運営、成長をサポートします。
執筆は2022年2月9日時点の情報を参照しています。2022年5月10日に記事の一部情報を更新しました。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash