インボイス制度の支援措置!納税負担の軽減と補助金の一覧を紹介

2023年に開始されたインボイス制度に合わせて、個人事業主でも利用できる補助金などのサポートの幅が広がっています。インボイス制度をきっかけに課税事業者になった個人事業主などのための「2割特例」や「補助金の上乗せ」の支援措置に加え、中小規模のビジネスに適用される各種特例措置などがあります。インボイス制度への対応に必要なITツールのコストにも使える「IT導入補助金」の他、個人事業主が実際に活用できるさまざまな支援措置やそのメリットについてわかりやすく解説します。

目次


インボイス制度とは?

インボイス事業者向けの支援措置などについて理解するうえで、インボイス制度そのものについて今一度、理解を深めておきましょう。

インボイス制度の概要

インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは、ビジネスで発生する消費税額を正確に伝えることを目指す制度です。消費税の標準税率10%と軽減税率8%が混在する中で、商品・サービスの売り手がインボイス(適格請求書)で正しい税率・税額を示すというものです。

売り手から交付されたインボイスを買い手が保存することで、買い手の納税時には消費税の多重納付を避ける「仕入税額控除」の適用を受けることができます。 仕入税額控除は、売り上げにかかる消費税から、材料などの仕入れにかかった消費税を差し引いて納税する仕組みで、結果的に納税額が少なくなることがメリットです。

課税事業者と免税事業者

個人事業主などは、インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)になる登録手続きを行うことでインボイスの発行が可能になります。ただし、この登録手続きができるのは消費税の納税義務がある「課税事業者」だけです。年間の課税売上高が1,000万円以下の個人事業主などは自動的に「免税事業者」となり、そのままではインボイス発行事業者になることができません。ただし、免税事業者も税務署で所定の手続きを行って課税事業者になれば、インボイス発行事業者として登録が可能です。

インボイス制度が事業者に与える影響

インボイスを発行できる事業者とできない事業者で、ビジネスにどのような違いが出てくるか考えてみましょう。買い手側が課税事業者である場合、「購入した商品・サービスのインボイスがあれば仕入税額控除が受けられる」というのは大きなメリットです。そのため、課税事業者である法人などはインボイス発行事業者を仕入れ先に選ぶ傾向が強まると想定され、インボイス非対応の免税事業者は取り引き先が減るなど不利になる可能性があります。実際、フリーランス協会が2023年12月に発表した調査によれば、免税事業者のままでいることを選択した人のうち17%が一方的な契約解除や値下げを経験したそうです。

参考:【調査集計速報】インボイス制度によるフリーランスへの影響(2023年12月13日、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)

ただし、インボイスを必要としない個人・免税事業者の買い手が顧客の中心となるビジネスでは、インボイス制度の影響は小さいといえます。

こうした状況から、個人事業主がインボイス制度の下でインボイス発行事業者になるかどうかは、以下の2点が判断のポイントとなるでしょう。

  • 現在、課税事業者の顧客をどれくらい抱えているか
  • これから、課税事業者の顧客をどれくらい増やしていきたいか

仕入税額控除をめぐる取り引き量の変化に加え、個人事業主がインボイス発行事業者に転向することによる納税や事務作業の変化についてもしっかりシミュレーションすることをおすすめします。

インボイス制度の「支援措置」とは?

インボイス発行事業者になるとインボイスの発行や管理などにコストがかかる一方で、納税負担の軽減や補助金の活用など、個人事業主も利用可能なさまざまな支援措置によるメリットを享受できます。

支援措置の目的

インボイス制度の支援措置の目的は、インボイス発行に伴う事務負担の軽減です。インボイスには登録番号など規定の内容を盛り込む必要があり、これまでの請求書とは発行・保存方法が異なります。さらに、受け取ったインボイスの帳簿上の区分など従来とは違うフローができることで、特に個人事業主などスモールビジネスにおける経理事務の負担は大きくなるため、それを軽減するのが支援措置です。

支援措置の一部には、インボイス発行事業者の登録制度の見直しと税負担の軽減もあります。課税事業者・インボイス発行事業者としての登録やインボイス発行・保存の手続きを要するインボイス制度を個人事業主などにも浸透させていくにあたり、その後押しとなる支援措置といえるでしょう。

支援措置一覧

インボイス制度の支援措置には次のようなものがあります。

  • 2割特例
  • 少額特例
  • 返還インボイスの交付義務免除
  • 仕入税額控除の経過措置
  • ものづくり補助金の「デジタル枠」
  • IT導入補助金の「デジタル化基盤導入類型」などの枠
  • 小規模事業者持続化補助金の上限50万円加算

これらの支援措置は要件を満たす場合のみ利用でき、一部は個人事業主などのスモールビジネス以外も対象です。

参考:
インボイス制度、支援措置があるって本当!?(財務省)
令和5年度税制改正関係(インボイス関連)(国税庁)

納税額の軽減が見込める「2割特例」

インボイス制度の支援措置としてよく聞かれる「2割特例」は、対象事業者への税負担を減らす仕組みです。

2割特例の概要

2割特例の正式名称は「インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置」といいます。個人事業主などのスモールビジネスが免税事業者からインボイス発行事業者となった場合に、売上税額の2割のみを納税すれば良いというルールです。免税事業者から課税事業者になったばかりの個人事業主などにとって、納税額の軽減は大きなサポートといえるでしょう。

参考:2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要(国税庁)

適用対象者と適用期間

2割特例の対象となるのは、インボイス制度開始をきっかけとして免税事業者から課税事業者兼インボイス発行事業者になった場合です。個人事業主、法人を問わず、次の五つの要件を満たすことが条件となります。

  1. 2023年末までにインボイス発行事業者の登録済み
  2. 2023年9月30日以前には課税事業者ではなかった
  3. 基準期間(2021年分)の課税売上高が1,000万円以下、または特定期間(2022年1月〜6月)の課税売上高が1,000万円以下
  4. 課税期間を短縮していない(消費税課税期間特例選択届出書の提出による)
  5. 2割特例の適用除外例(相続、高額資産の仕入れがあった場合など)に該当しない

これらの適用条件は国税庁ウェブサイトのページ「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」で確認できます。

2割特例の適用対象となる期間は「2023年10月1日〜2026年9月30日を含む課税期間」で、個人事業主の場合は「2023年10〜12月の申告から2026年分の申告まで」が対象です。2割特例については、「個人事業主向け!消費税申告やインボイス特例についてやさしく解説」でも紹介していますのでご参照ください。

必要な手続き

2割特例の適用には事前の届出や登録手続きは不要です。適用の要件と期間に合致していれば、消費税を申告する際に2割特例の活用を選択するだけでいいので、個人事業主などにも利用しやすい仕組みといえます。

小規模事業者の事務負担を軽減する「少額特例」

インボイス制度の導入によって増える経理などの事務作業は、「少額特例」という特例措置で負担を軽減できます。

少額特例の概要

少額特例は「一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置」という正式名称が示すように、中小企業や個人事業主のための特例措置です。具体的には、仕入れ額が税込み10,000円未満である場合に、そのインボイスを保存していなくても帳簿の記録があれば仕入税額控除が可能というものです。

たとえば会社の備品を5,000円で経費購入した場合、売り手がインボイス発行事業者であるか否かに関わらず、帳簿に記録しておくだけで仕入税額控除の対象となります。インボイスを発行できない免税事業者からの購入も同じです。ただし、5,000円と8,000円の備品を同時に経費で購入して合計が13,000円の場合は、規定額をオーバーするため少額特例を適用できません

参考:少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)の概要(国税庁)

適用対象者と適用期間

少額特例は、次のいずれかの規模のビジネスを対象としています。

  • 基準期間(前々事業年度。個人事業主の場合は前々年)の課税売上が1億円以下の事業者
  • 特定期間(前事業年度の開始日以後6カ月。個人事業主の場合は前年1~6月)の課税売上が5,000万円以下の事業者

いずれかに当てはまれば、2023年10月1日から2029年9月30日までの適用期間内において少額特例を利用できます。

必要な手続き

少額特例の適用には事前申請などは不要です。ただし、適用対象外の仕入れを仕入税額控除の対象とするにはインボイスが必要であることを覚えておきましょう。

【少額な値引き・返品に限る】返還インボイスの交付義務免除

インボイス制度の支援措置の一つである「少額な返還インボイスの交付義務免除」は、金額の小さい返品や値引き関連の事務作業を軽減する仕組みです。

返還インボイスとは

ビジネスにおいて返品、値引き、割戻しが発生した場合、通常は「返還インボイス(」を発行して手続きやお金の流れを証明します。しかし、「少額な返還インボイスの交付義務免除」の仕組みにより、税込み10,000円未満の返品、値引き、割戻しについては返還インボイスが不要で、発行の手間がなくなります。

少額な返還インボイスの交付義務免除の一例として、売り手が銀行振込手数料を負担する際に「売上値引」として扱うケースでは、その振込手数料分が10,000円未満であれば返還インボイスは必要ありません。

参考:少額な返還インボイスの交付義務免除の概要(国税庁)

適用対象者と適用期間

少額な返還インボイスの交付義務免除については個人事業主も含む全ての事業者が対象で、適用の期限は設けられていない状態です。

必要な手続き

少額な返還インボイスの交付義務免除は、特別な手続きなしで適用されます。

仕入税額控除の経過措置とは

仕入税額控除は買い手にとってメリットのあるものですが、すべての売り手が課税事業者・インボイス発行事業者の登録をすぐに進めているとは限りません。そこで、買い手がインボイス発行事業者以外から仕入れを行った場合のデメリットを段階的に調整するのが「経過措置」です

インボイス制度における経過措置の概要

経過措置の実施期間である6年間、買い手はインボイス発行事業者以外からの仕入れにかかる消費税額のうち一定割合を仕入税額控除の対象にできます。注意点は、期間ごとに控除の割合が異なることです。

経過措置の適用期間 控除割合
2023年10月1日〜2026年9月30日 仕入れにかかる消費税額相当額の80%
2026年10月1日〜2029年9月30日 仕入れにかかる消費税額相当額の50%

経過措置を受けるための要件

仕入税額控除の経過措置には、指定の内容が記載された帳簿と請求書が必要です。

  • 帳簿に必要な記載事項
    売り手の名称、仕入れ年月日、商品・サービス名、金額、「経過措置の適用を受ける課税仕入れ」とわかる記載(例「免税事業者からの仕入れ」「80%控除の対象」など)
  • 請求書に必要な記載事項
    書類を発行する事業者名、商品・サービスの受け渡し年月日、商品・サービス名、税率ごとに合計した商品・サービスにかかる税込金額、書類を受け取る事業者名

インボイス制度導入に関連する補助金

インボイス制度に対応するために複雑化した経理事務においてはデジタル化のニーズが高まっています。インボイス制度に関連する社内DXのコストを軽減すべく、個人事業主も利用可能な補助金の利用を検討してみましょう。

ものづくり補助金

「ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)」は、中小企業や個人事業主の生産性向上を目的とする補助金です。補助金の用途に応じて、通常枠、回復型賃上げ・雇用拡大枠、デジタル枠、グリーン枠、グローバル市場開拓枠の五つの枠が設けられ、インボイス制度に対応するためのクラウド型ITツールの導入などにはデジタル枠を利用可能です。

創業時期や事業規模などの要件を満たし、事業計画書などの必要書類を用意したうえで、オンラインで申請します。デジタル枠の場合、補助金上限は企業規模により100万円〜1,250万円です。

参考:ものづくり補助金

IT導入補助金

業務効率化やセキュリティー対策などのためのDX推進を目的とした「IT導入補助金」も、インボイス制度への対応に利用できます。オンラインで申請可能な最大450万円までのIT導入補助金の用途は、インボイス制度に関連した会計ソフトやクラウドサービスの利用料の他、パソコンなどのハードウェアのコストも対象です

「デジタル化基盤導入類型」や「商流一括インボイス対応類型」などの申請枠があり、枠によっては下限額が撤廃されているため、少額のITツール導入にも活用できます。

参考:IT導入補助金2023

小規模事業者持続化補助金

個人事業主や中小企業の持続的な経営をサポートする「小規模事業者持続化補助金」とは、販路開拓や業務効率化のコストを補助するものです。

小規模事業者持続化補助金はインボイス対応のためのDXを主目的とする補助金ではありませんが、免税事業者からインボイス発行事業者に転向するビジネスに対して「インボイス特例」が設けられています。インボイス特例が適用されると補助金の上限額が50万円が上乗せされるため、補助金の合計額は最大100万〜250万円です。郵送またはオンラインで申請手続きを行います。

参考:商工会議所地区 小規模事業者持続化補助金

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以上のように、個人事業主などのスモールビジネスであってもインボイス制度をめぐる支援措置や補助金など、さまざまなサポートを活用できます。インボイス制度導入のタイミングに合わせて、ビジネスの成長を加速させていきましょう。


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執筆は2024年1月10日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash