▶︎この記事では、タッチ(コンタクトレス)決済について説明しています。
現金を使う人が諸外国に比べてまだ多いとされる日本でも、ここ数年でよく目にするようになったのは、端末にカードやスマートフォンをかざすことで決済ができるタッチ決済(非接触型決済)。現金のやりとりが発生しない分、支払いがスピーディーなこの決済方法は、近年利用者が増えています。ところが誕生は、実は20年ほど前にさかのぼります。ここではタッチ決済の定義や種類を解説し、誕生から今までの道のりを辿ります。
目次
タッチ決済って何?
タッチ決済とは前述のように、専用端末にかざすだけで支払いが完了する決済方法です。
定義として、非接触型ICカード、もしくは非接触型ICチップを利用していることが挙げられており、近年普及が進んでいるQRコード決済は含まれません。
タッチ決済の国際基準とされているのは、NFC(Near Field Communication)と呼ばれる非接触のデータ通信技術です。頭文字をとっているNear Field Communicationは、数センチほどの近距離でカード、または対応機器をかざすとデータの通信ができる「近距離無線通信規格」を意味します。NFCは「NFC Type-A」、「NFC Type-B」そして「Felica(NFC Type-F)」の大きく三つに分かれており、タッチ決済はもちろんのこと、カードキーや証明書などにも採用されています。
なお、タッチ決済においては「NFC Type-A」と「NFC Type-B」の両方に対応する「NFC Type A/B」と「Felica(NFC Type-F)」の二つが使用されています。読み取りに必要な専用端末がそれぞれ異なるので、店頭での導入を検討する際には特徴をとらえておきましょう。
1. NFC Type A/B(別称、EMVコンタクトレス)
まずは基礎として、「NFC Type-A」と「NFC Type-B」の特徴を表で見ていきましょう。
このように個別に用いられることもありますが、前述のようにタッチ決済において採用されているのは「NFC Type A/B」です。主な導入例には、非接触対応マーク(下記イメージ)がついているクレジットカードが挙げられます。
「サインレス決済」とも呼ばれるこの決済方法は、従来のように決済時に暗証番号を打ち込んだりサインをしたりする必要がない(※)ため、よりスピーディーに決済が完了します。さらに店員にカードを渡す必要も、暗証番号を入れる指の動きを見られる心配もなくなるので、セキュリティー面でも安心して利用できるといえるでしょう。
※一定額を超える支払いには、サインが必要です。
現在日本では、下記のカードブランドのNFC TypeA/B決済が使用できます。
- Visaのタッチ決済(旧VISA payWAVE)
- Mastercardコンタクトレス
- JCBコンタクトレス
- American Expressコンタクトレス
また、現時点ではVisaを除く3ブランドであればApple Payでも利用ができます。
「あまり見かけたことがない」と思う人もいるかもしれませんが、現時点ではマクドナルドやローソン、TSUTAYAなどがNFC Type A/Bに対応しています。NFC Type A/Bが広く普及している海外に比べると加盟店数はまだ少ないですが、訪日観光客の増加が予想される東京大会に向けて、さらなる拡大が見込まれます。
2. FeliCa(NFC Type-F)
FeliCaは、ソニーが日本で開発した、Type-Fとしても知られる非接触型ICカード技術です。名称には至福や歓喜を意味する「Felicity」と「Card」の二つの単語を組み合わせており、「至福をもたらすカード」という意味合いを持つそうです。NFC Type A/Bに比べて通信速度が二倍近く速いことから、国内ではFeliCaが広く採用されています。しかしながら海外ではNFC Type A/Bが一般的とされており、FeliCaはほとんど採用されていないのが現状です。
代表的な導入例としてあるのが、国内初のタッチ決済となった、Edy(現在は楽天Edy)とSuicaです。そのほかにもFeliCaチップを搭載しているカードや機器であれば、専用リーダーとの通信が可能です。FeliCaはNFC Type A/Bと同様、決済だけでなく、幅広い用途で使えるようになっています。
NFC(Type A/B)とFeliCa(Type-F)の違いを下記の表でも比較してみましょう。
このようにNFC Type A/Bよりも決済方法が豊富なFeliCaの方が、国内では馴染み深いとされているかもしれません。
タッチ決済の歴史を振り返ろう
タッチ決済の原点は、ソニーが日本でFeliCaの開発を始めた1988年にまで遡ります。この技術が初めて世に送り出されたのは1997年のことで、初めて採用されたのは、いまや発行数が人口を上回る香港のIC乗車券「オクトパスカード」でした。一方、国内で初めてFeliCaが導入されたのは2001年。何度も試験を重ねた後、Edy(現在の楽天Edy)とJR東日本のSuicaが国内初のタッチ決済方法として発表されました。
同時に開発が進んでいたのは、前述のNFC Type-Aに基づくMIFARE(マイフェア)です。MIFAREは、1996年に韓国のバスカード(現在のUパス)に採用されたのが起点となり、今では世界でもっとも普及している規格とされています。さらにここに加わったのが、パスポートや運転免許証などの証明書に使用されているNFC Type-Bです。
このようにさまざまな規格が登場したことから、2004年にはそれらを統括する試みで「NFCフォーラム」という業界標準団体が発足されました。NXPセミコンダクターズ、ノキア、ソニーの三社によって設立されたこのフォーラムは、以来、仕様の策定や普及の推進などに努めています。
いまや日常的な光景になりつつある携帯電話(スマートフォン)でのタッチ決済が開始したのも同じく2004年。アメリカではノキアが、日本では「おサイフケータイ」を初めて搭載したNTTドコモが草分け的存在となり、翌年にはiDやQUICPayなどのポストペイ型電子マネーサービスの使用も開始されました。
タッチ決済がより生活に身近な決済手段として浸透していくなか、日本が本格的に「電子マネー元年」を迎えたのは2007年のことです。今では公共料金や税金などの支払いもできてしまうセブン&アイホールディングスの「nanaco」や、イオングループの「WAON」、そして新たな交通系電子マネーとして「PASMO」が誕生し、ICカードを用いたタッチ決済が次々と市場に参入したことから話題を呼びました。もう決して珍しくないコンビニでのタッチ決済も、この年に開始しています。
タッチ決済の勢いは加速するばかりで、次に、前述のNFC Type A/Bを搭載したクレジットカードのタッチ決済が世界に広まり始めました。Visaのタッチ決済に関しては、2011年頃からオーストラリアでの普及が広まり、いまでは世界200カ国で導入されています。ビザ・ワールドワイド・ジャパンの調査では、オーストラリアやイギリス、シンガポールやイタリアではクレジットカード利用の5割以上がタッチ決済だと発表されています。
参考:VISA、タッチ決済普及へ 東京五輪、訪日客に照準(2019年5月18日、朝日新聞)
携帯電話(スマートフォン)、ICカード、クレジットカード……これらに続いて、近年タッチ決済機能が使えるようになったのは、ウェアラブルデバイスです。日本では2016年に発売されたスマートフォン市場の代表格、Appleの「Apple Watch Series 2」にFeliCaが搭載され、Suicaの使用が可能となり、「Apple Watch Series 3」からはApple Payでの決済もできるようになりました。今ではFossilやGARMIN、Fitbitなどのスマートウォッチにも決済機能が備わり腕時計一つで決済が叶うようになっています。
ここでは開発から現在に至るまでのタッチ決済の歴史を振り返ってきましたが、日本と海外におけるタッチ決済には、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。次回は海外でのタッチ決済の現状をカバーします。
続けて読もう!「海外でのタッチ決済の現状」
▶︎タッチ決済については、以下の記事でも詳しく説明しています。
(1) タッチ決済とは?歴史と成り立ちを知ろう!
(2) 海外では当たり前?タッチ決済における、世界の現状
(3) 海外との違いを知ろう!国内でのタッチ決済の今と未来
(4) 今後の端末選びには「タッチ決済対応」が肝?タッチ決済の決済端末3社を比較!